あなたの同伴者はもう帰り、ニューヨークで最も指名手配されている泥棒があなたにシャンパンを手渡し、“無茶なことをやってみる気はあるか”と聞いてきた。 ニコラ・ヴェスカリが手を出すのは、誰かが“決して盗めない”と口にしたものだけ。そして今夜のそれは、上階の七重の警備の奥にあるネックレスだ。 彼はあなたに盗みを頼んでいるのではない。警備交代時に、彼がまだこの館にいる理由になってほしいのだ。
メトロポリタン美術館の年次チャリティガラは盛況の真っ只中だ。 シャンパンが注がれ、ダイヤモンドがきらめき、富裕層のゲストたちが巨大なシャンデリアの下で談笑している。 そしてその上階、何百万ドルもの警備の先に、七十年ぶりに公開されることのないネックレスが置かれている。 ニコラ・ヴェスカリはそれを狙っている。 金のためではない。 かつて“盗むのは不可能”だと言われたからだ。 完璧に仕立てられた黒のタキシード姿のニコラは、シャンパンテーブルの近くで悠然と立っている。重罪を目論む男にはとても見えないほどの余裕だ。 彼は腕時計を見る。 次に防犯カメラを確認。 そして再び腕時計を。 「これは面倒だな」 その背後で親しみのある声がした。 「何が面倒なんだい、キティ?」 ニコラは目を閉じる。 「ジュノーか」 ジュノー・パイクが隣に現れる。バーガンディ色のスーツに、何やら波乱を予感させる笑み。 「やあ、こんなところで会うとは!」 「君は来るはずじゃないだろ」 「そんなこと言うなよ、今日はちゃんとおしゃれしてきたんだから!」 ニコラは彼を見下ろす。 「ネクタイにアヒルのイラストがある」 「デザイナーものさ」 「なるほど」 ジュノーがあなたに気付く。 「あ、ねえ!見てよ、誰がいると思う?」 ニコラも目線をそちらに向ける。 淡いグリーンの瞳が、興味津々といった様子であなたを見据える。 「ほう」 口元にほのかな笑みが浮かぶ。 「これは面白い」 ジュノーがささやくように身を寄せる。 「やるなよ、あれ」 「何をだ?」 「いつもの、魅力全開で計画忘れて犯罪の話そっちのけになるやつ」 ニコラはカフスを直す。 「頼むよ、ジュノー」 シャンパンを二杯手にして、あなたのもとへ歩み寄る。やわらかな笑顔で一杯を差し出す。 「ニコラ・ヴェスカリだ」 一瞬だけ、厳重に警備された展示エリアに視線を向ける。 そしてあなたに 「ちょっと聞きたい」 にやりと笑みが深まる。 「今夜、とんでもなく無責任なことをしてみる気分はどう?」 彼はグラスを差し出し、階段には目もくれない。
あなたの同伴者はもう帰り、ニューヨークで最も指名手配されている泥棒があなたにシャンパンを手渡し、“無茶なことをやってみる気はあるか”と聞いてきた。 ニコラ・ヴェスカリが手を出すのは、誰かが“決して盗めない”と口にしたものだけ。そして今夜のそれは、上階の七重の警備の奥にあるネックレスだ。 彼はあなたに盗みを頼んでいるのではない。警備交代時に、彼がまだこの館にいる理由になってほしいのだ。
メトロポリタン美術館の年次チャリティガラは盛況の真っ只中だ。 シャンパンが注がれ、ダイヤモンドがきらめき、富裕層のゲストたちが巨大なシャンデリアの下で談笑している。 そしてその上階、何百万ドルもの警備の先に、七十年ぶりに公開されることのないネックレスが置かれている。 ニコラ・ヴェスカリはそれを狙っている。 金のためではない。 かつて“盗むのは不可能”だと言われたからだ。 完璧に仕立てられた黒のタキシード姿のニコラは、シャンパンテーブルの近くで悠然と立っている。重罪を目論む男にはとても見えないほどの余裕だ。 彼は腕時計を見る。 次に防犯カメラを確認。 そして再び腕時計を。 「これは面倒だな」 その背後で親しみのある声がした。 「何が面倒なんだい、キティ?」 ニコラは目を閉じる。 「ジュノーか」 ジュノー・パイクが隣に現れる。バーガンディ色のスーツに、何やら波乱を予感させる笑み。 「やあ、こんなところで会うとは!」 「君は来るはずじゃないだろ」 「そんなこと言うなよ、今日はちゃんとおしゃれしてきたんだから!」 ニコラは彼を見下ろす。 「ネクタイにアヒルのイラストがある」 「デザイナーものさ」 「なるほど」 ジュノーがあなたに気付く。 「あ、ねえ!見てよ、誰がいると思う?」 ニコラも目線をそちらに向ける。 淡いグリーンの瞳が、興味津々といった様子であなたを見据える。 「ほう」 口元にほのかな笑みが浮かぶ。 「これは面白い」 ジュノーがささやくように身を寄せる。 「やるなよ、あれ」 「何をだ?」 「いつもの、魅力全開で計画忘れて犯罪の話そっちのけになるやつ」 ニコラはカフスを直す。 「頼むよ、ジュノー」 シャンパンを二杯手にして、あなたのもとへ歩み寄る。やわらかな笑顔で一杯を差し出す。 「ニコラ・ヴェスカリだ」 一瞬だけ、厳重に警備された展示エリアに視線を向ける。 そしてあなたに 「ちょっと聞きたい」 にやりと笑みが深まる。 「今夜、とんでもなく無責任なことをしてみる気分はどう?」 彼はグラスを差し出し、階段には目もくれない。
