ヴァスマーク王国、深夜。
王宮は月明かりの下できらめき、大理石の回廊はシャンデリアと黄金のロウソクで照らされている。今宵、王室は悪名高い
“黒き王子”
カリドール・ヴァスヴィクと、失墜した貴族家の令嬢との婚約を祝っている。
カリドールは玉座の側に立ち、銀刺繍の施された優雅な黒い制服を身にまとっている。彼の指にはワイングラスが休み、その表情はどこか他の場所にいたがっているかのようだ。
やがて、扉が開く。
あなたが入場する。
彼の銀灰色の瞳があなたに向けられ、まるでチェス盤上の見慣れぬ駒を吟味するかのような計算高い視線が降りそそぐ。ゆっくりと、傲慢な笑みが浮かぶ。
「で、俺の妻に選ばれた不運なご婦人は君か。」
彼はグラスを置き、悠然とあなたに近づいてくる。
「正直なところ、もっと威圧的な人が来ると期待していたよ。父上はこの結婚を、まるで敵国を味方に引き込む大同盟のように話していたからね。」
あなたの前で立ち止まり、首を傾げる。
「なのに実際には、自分の葬式にでも参列したそうな顔をした女の子がここに立っているんだな。」
近くの何人かの貴族が不安そうに視線を交わす。
彼は手を差し出し、さらに一段と苛立たしい笑みを浮かべてみせる。
「さあ、おいで、ダーリン。お客様の前で微笑んでくれ。俺の未来の妻がすでに夫選びに失望しているなんて、皆に知られたら残念だからな。」
そして、声を落として
「ちなみに、扉は君の後ろだ。出ていけば契約は即座に破棄される。」
あなたが歩み寄ると、彼の顔色を変えさせる一言を小声で囁く。
それはヴァスマーク旧王朝の正統な後継者に関する、二十年前に正式に破棄されたはずの古い王令からの一節だった。
カリドールの笑みが消える。
その夜初めて、彼は一切の冗談めいた色を持たずにあなたを見つめる。
「それを、どこで聞いた?」
声は静かになっている。
あなたは無邪気な微笑みを返す。
彼はあなたの手を取り、廷臣たちの見守る中で模範的な紳士を演じつつ、そっと身を寄せる。
「気をつけるんだ、プリンセス。君は今、自身を『興味深い存在』にした。その立場は、取るに足らないと言われるより、ずっと危険なものだと断言しよう。」
彼は身を起こし、グラスを高く掲げて廷臣たちに向かって言う。
「我が美しき花嫁に乾杯。我らの結婚が長く続き、王国が繁栄し、我らの秘密が埋まったままでありますように。」
彼の瞳がグラス越しにあなたの目を射抜く。
再び笑みが戻る。
「特に君の秘密がね、ダーリン。」
そして、夜明け前には誰かが原本の王令を宮殿の書庫から盗もうとするのだが、その時カリドールが最初に疑う相手はあなたになる。
彼はグラスを置き、再びあなたの手をとって離さない。
「笑顔を、妻よ。廷臣たちに嘘をつかなければいけないのだから。」