ソリニャック・グランドホテルは、一度も『ノー』と言われたことのない人々のために建てられた王国のように輝いていた。
800人ものゲストが巨大なクリスタルのシャンデリアの下、ボールルームを埋め尽くしている。シャンパンは途切れることなく注がれ、カメラのフラッシュがきらめき、政治家、億万長者、経営者、由緒ある家柄、社会派レポーターたちが毎年恒例のソリニャック基金ガラのため金色の天井の下に集まっていた。
シリル・ソリニャックはその中心付近に立っていた。
黒いタキシード。鋼のような灰色の瞳。片手にウイスキーグラス。その表情は、彼が話せば部屋全体が動くことに慣れた男特有の冷酷な威厳を漂わせていた。
あなた――彼の妻――も彼と共に到着していた。
そして、ボールルームの扉が開く。
オダリー・マルシャルが入場した。
会話が一つずつ途絶えていく。
その理由は彼女のドレスではない。
彼女の首元に輝くもののせいだった。
ソリニャック・エトワール。
「なんてことだ。」
それはシリルの亡き祖母のものであり、伝説的なソリニャック家の家宝であり、伝統的に家長の妻だけに贈られるもの。
あなたは一度も与えられたことのないネックレス。
それをオダリーが身につけている。
ラウル・デシャンがシャンパンを下ろす。
シリルもその視線を追う。
彼が彼女を見るや否や、全身が硬直する。
グラスが口元に行く途中で止まった。
「なんであんなものを身につけている?」
ボールルームの向こう側で、オノリーヌ・ソリニャックは何の関心もなさそうに見つめている。
オダリーが近づいてくる。
カメラのシャッター音が即座に鳴り響く。
「シリル。」
彼女の声は柔らかい。
彼はダイヤモンドから目を離さない。
「外せ。」
彼女は動きを止める。
「え?」
「聞こえただろ。」
その声が鋭くなる。
「外せ。今すぐ。」
母親が二人の間に割って入る。
「だめよ。」
彼は母親の方へ鋭く振り向く。
「今なんて言った?」
「私が彼女に渡したの。」
彼はすれ違うウェイターのトレイにウイスキーグラスを叩きつけ、ほかのグラスもガタガタと震えさせるほど。
「そんな権利はなかったはずだ。」
周囲の会話がぴたりと止まる。
母親の表情が氷のように冷たくなる。
「声を落としなさい。」
「俺に静かにしろって言うな。」
彼はさらに近づく。
「そのネックレスは俺の妻のものだ。」
母親はあなたを一瞥して言い放つ。
「いいえ。あれはソリニャック家のものよ。」
オダリーはダイヤモンドに手を添える。
「シリル、私は知らなかった――」
「やめろ。」
彼は彼女に鋭い視線を投げる。
「その場で、まるで自分が何も分かっていないふりをするな。」
彼女の表情が硬くなる。
「それなら、なぜあなたの母親が私にふさわしいと考えたのか彼女に聞くべきね。」
彼の顎が強張る。
ラウルが小さく呟く。
「これは酷いことになりそうだ。」
もう手遅れ。
記者たちも気付いた。
「ソリニャックさん!」
彼は鋭く向き直る。
「ソリニャックさん、写真をお願いします!」
「オダリーさん、こちらを向いて!」
「ソリニャック夫人!」
さらに多くのカメラがあなたに向けられる。
さざ波のような小声がボールルームに広がる。
「なんで妹が身につけてるの?」
「普通あれは妻のものじゃなかった?」
「どうやらお母さんは違う意見みたいね。」
「彼女の立ち位置を見て。」
彼女は彼の隣に立っている。
記者の一人がさらに前に詰め寄る。
「ソリニャックさん、オダリーさんとご一緒のお写真をぜひ!」
彼の顔が怒りに満ちていく。
「ノーだ。」
母親が彼の腕を掴む。
「スキャンダルを起こさないで。」
彼は腕を振りほどく。
「スキャンダルを作ったのはあなたたちだ。」
母親が彼の間合いに踏み込む。
「あなたが収拾しなさい。」
シリルは冷たく、微かに嘲るような短い笑い声をあげる。
「どうやって収めろと?」
「笑顔を見せなさい。」
オノリーヌの視線がオダリーへと移る。
「写真を撮らせなさい。」
ラウルがすぐに割り込む。
「絶対にダメだ。」
母親が振り返る。
「あなたには聞いていない。」
「それなら話が早いな。」
ラウルがあなたを指さす。
「彼の妻がちゃんとそこにいる。」
オダリーの表情に緊張が走る。
「誰にも彼女を排除してほしいなんて頼んでない。」
ラウルが彼女のネックレスを指さす。
「君は奥さんのダイヤを身につけてるんだぞ。」
オダリーが一歩前に出る。
「私への口の利き方に気をつけて。」
ラウルが冷たく笑う。
「で、どうする?」
シリルが二人の間に割って入る。
「もう十分だ。」
その声が場の全員に響き渡る。
全員が固まる。
もう一人の記者がバリケードの後ろから叫ぶ。
「ソリニャックさん!奥様もご一緒に写真は?」
沈黙。
彼はあなたを見つめる。
次にオダリーを見る。
そして、これから起こることすべてを明日の大見出しにしようとしているカメラの壁を見据える。
母親が息子に囁く。
「慎重に選びなさい。」
彼の目が鋭く光る。
「脅すのはやめてくれ。」
「何が賭けられているかわかっていることを思い出させているだけよ。」
オダリーが彼の袖に手を伸ばす。
「いいわ、私が出て行くわ。」
彼は彼女の手首を掴み、引き止める。
「行くな。」
その一言は銃声のように場を支配する。
ラウルが彼を見つめる。
「シリル。」
彼は無視する。
オダリーは彼の隣に立ち続ける。
母親の口元にごく僅かな微笑が浮かぶ。
記者たちの声が再び高まる。
「ソリニャックさん!」
「シリル!」
「一枚だけ写真を!」
ついに彼の忍耐が爆発する。
「分かった! 好きにしろ!」
その声が会場を切り裂く。
数百の視線が一斉に集まる。
彼はひと呼吸して、恐ろしいまでに冷静な表情に戻る。
まっすぐあなたを見る。
「ガラをたかがネックレスで茶番にするつもりはない。」
ラウルが眉を跳ね上げる。
「たかがネックレス?」
彼は目を逸らさない。
「あとで個人的に話そう。」
オダリーは彼の傍らに立つまま。
まだダイヤを身につけて。
まだ手首を掴まれたまま。
彼が引き止めた女性。
母親はカメラのためにその場を開ける。
彼は彼女の手首を離す。
だが彼女を追い払うことはしない。
自分の立ち位置につく。
オダリーが彼の隣に立つ。
カメラのフラッシュが一斉にたかれる。
そして、ボールルームのどこからか誰かが、聞こえるように囁く。
「ソリニャックはついに正しい妹を選んだみたいね。」