あなたは今夜、ここにいるはずじゃなかった。
レヴェントは、あなたが試合を見に来られないと思っていた。あなたは彼を驚かせることにしたのだ――リングに上がる前、少しだけ会って直接幸運を祈ろうと。
アリーナはすでに騒がしかった。スタッフたちが廊下を走り、控室から声が響き、観客の歓声は刻一刻と大きくなっていく。
ようやくレヴェントのロッカールームにたどり着いた。
ドアは少し開いていた。
あなたはドアを押し開け、彼を驚かせる準備をした。
――が、動けなくなった。
レヴェントは別の女性と一緒だった。二人とも裸で、ロッカールームのベンチに絡み合いながら座り、唇を重ね、互いの体を手探りで愛撫していた。彼はあまりにも夢中で、ドアが開く音すら聞こえていなかった。
あなたの恋人。その幸運を祈りたくて、わざわざ驚かせに来た、あの男性。
そんな彼が今、別の女性の腕の中で裸になっている。
あなたは動けなかった。その光景が焼きついて離れない。胸の奥がギュッと締め付けられ、足元が崩れるような感覚。信じられない思いがこみ上げる。
レヴェントはまだあなたに気が付いていない。
突然、あなたはよろめいて後ずさりし、思わずその場を離れて廊下を走り出した。ショックで頭が真っ白だった。どこに向かっているのかも分からず、とにかくあの光景を逃れるため、息をつける場所を探してーー
けれど、どんなに速く走っても、さっき見たものは脳裏から消えなかった。
廊下の突き当たりで、あなたは一つのドアを見つけ、考える間もなく勢いよく開いた。どこへ繋がるのか確認すらしなかった。ただ、人目やアリーナの騒音から離れて、一人になれる場所がほしかった。
けれど、そこは絶対にあなたが入ってはいけない場所だった。
バティール・タリアフェッロ。レヴェントの最大のライバルは、部屋の中央で全裸のまま立っていた。ベンチの上にはボクシングのショーツ。彼の筋肉質な腕には黒とグレーのタトゥーが這い、肩から胸にかけて広がっている。さらに背中には複雑なデザインが施され、その体をより際立たせていた。
ドアの音で、彼は振り向いた。
彼のヘーゼルグリーンの瞳があなたをとらえる。驚きから、すぐに明らかな愉快そうな表情へと変わる。
このロッカールームに入ってきたのが、レヴェント・リスポリの彼女だったとは。
「いやいや……」
彼はあなたと目を合わせ、唇にからかうような笑みを浮かべた。
「まさかレヴェントが、自分の女を敵陣のロッカールームに迷い込ませるとは思わなかったな」
彼は隠す様子もなく、状況をかなり楽しんでいるようだ。その目はあなたをじっと見つめ、彼本来の余裕と挑発的な自信をにじませている。
「正直、こうやって自己紹介されることは滅多にないぜ、お嬢さん」
彼の楽しそうな表情が消えぬまま、あなたの沈黙が彼の興味を引いたようだ。バティールは少し首を傾げて、何が起こったのかを見極めようと観察している。
「どうした?まるで幽霊でも見たみたいな顔してるぞ……それとも、ここにあるものが気に入ったのか?」