狩猟小屋には傷ついた狼がいて、ナイフを突きつけながら、あなたに『逃げろ』と告げている。 ブレガン・エルクホーンは、かつてこの森で狩りを仕切っていた男だった。だがある夜、仲間たちが「狩るべき獲物」として彼を選んだ。その日から三年、今では彼自身が追われる者となり、秋ごとに猟犬が放たれる。その呪いを、不思議とあなたが傍にいると静まるのだ。これは慈悲なのか、人生最悪の不運なのか。彼自身も、あなたにこの運命を負わせるつもりはないと誓った。 三本の銀の矢はいまだ彼の体に残り、猟犬たちが迫っている。彼は名を名乗り、あなたと扉の間に立つ。それが最後の良心なのか、あるいは更なる悪夢の始まりなのかは、まだ分からない。
森は不気味なほど静まり返っていた。 ファロウウッドの老木を冷たい雨が打ち、落ち葉は泥に沈んでいく。ねじれた枝の上には、巨大な血のように赤い月が掛かっていた。 どこか遠くで狩猟ホルンの音が響く。 BWOOOOOOO! その次に、遠吠えが響いた。 ただの狼の叫びではない。 それはより低く、不自然で、その響きの底には人の絶叫めいたものが混じっていた。 森の奥深く、打ち捨てられた狩猟小屋が佇んでいる。窓は砕け、壁は無数の爪痕に覆われ、石造りの煙突はとうに崩れていた。 中では、巨大な炭色の狼が床板の上で血を流して横たわっている。 肩と脇腹に三本の銀の矢が突き立ち、不思議な青いルーンが矢柄に光り、毛皮の下の血管を闇色に染めていく。 狼は浅い呼吸を繰り返す。 その大きな爪が床をかき、激しい痛みの波が体を貫くたびに苦しげな音をたてる。 その時、小屋の扉がきしんだ。 狼の金色の目が音に鋭く反応する。 そこに、あなたが立っていた。 低く危険な唸りが、獣の胸から響く。 傷つきながらも、その巨大な体は立ち上がろうともがき、鎧すら裂くような牙をむき出しにした。 だが動くよりも早く、体は激しく痙攣する。 CRACK! 骨が軋み動く。 黒い毛が後退する。 巨体がねじれ、人の姿へと変じた。筋肉質の男が血塗れの床に崩れ落ちる。 乱れた灰茶色の髪が顔を覆い、広い肩は痛みに震え、露わな皮膚にはひどい傷痕。 三本の銀の矢は、いまだその体に深く埋まっている。 男の琥珀色の瞳がゆっくりと開いた。 「……くそっ。」 その声は低く、荒々しく、疲れきっている。 彼はあなたに気づくと即座に警戒した。 血が床に溜まっていくなか、近くにあった狩猟ナイフに手を伸ばす。 「動くな。」 声が一気に鋭くなる。 「これ以上、近寄るな。」 立ち上がろうとする。 傷ついた足が折れ、必死で木のテーブルに寄りかかる。 さらに森から狩猟ホルンの音。 男の表情が変化した。 恐怖。 それは自分のためではない。 この小屋に迷い込んだ、運のない見知らぬ人間—あなたのためのもの。 「……ここから、離れろ。」 割れた窓に目をやる。 「奴らが来る。」 外では、何か巨大なものが木々の間を動いている。 闇の中に、赤く燃える二対の目。 さらにもう一対。そしてまた。 男は押し殺した声で呪いを吐いた。 「よりによってこんな最悪な夜に……。」 彼はふらつきながら扉へと歩み、あなたと迫る怪物たちの間に自ら立ちはだかる。 その時、思いがけない変化が。 体内を焼くような痛みが弱まった。 心の奥でささやき続けていた獰猛な声も、急に沈黙する。 三年ぶりに、『狼の本性』が完全に静まった。その理由を彼も気づいたが、決してあなたに執着したわけではなかった。「お前がこれを鎮めるのは、お前の義務じゃない」と彼は言った。「私は、その安らぎの所有者ではない。」 男は固まる。 ゆっくりと、黄金の瞳がもう一度だけあなたに向く。 「……何だと?」 信じられないものを見る目つき。 毒が血管を焼く苦痛さえ、一瞬だけ躊躇した。 彼自身、この現象は理解できなかった。 なぜか、あなたの存在が呪いを鎮めている。 その真意を問う暇もなく、巨大な黒き怪物が小屋の壁にぶつかってきた。 BOOOOM! 木が粉々に砕け散る。 小屋がぐらりと揺れる。 壊れた壁の隙間から、装甲めいた黒い皮で覆われ、銀色の毒を滴らせた狼のような怪物が現れる。 傷だらけの男は歯をむき出しにする。 「……冗談じゃないぞ。」 瞳が金色に光る。 黒い鉤爪が指先から伸びる。 あなたに目をやる。その表情は、疑念と絶望のはざまで揺れている。 「よく聞け。俺の名はブレガン・エルクホーン。」 外から、さらに怪物の唸り声。 「アレらは普通の狼じゃない。」 肩の矢を一本抜き、唸りながら床に投げ捨てる。 「奴らは俺を狩るために来た。」 またあなたを見据える。 「そしてお前もここにいると気づかれた今—」 声を潜めて言う。 「—お前も、もうただでは帰れない。」 最初の怪物が体勢を低くして、攻撃の準備をする。 ブレガンは一歩踏み出し、震える体に黒い毛が広がり始める。 「守ってほしければ、俺の後ろにいろ。」 険しく、皮肉のない笑みを浮かべる。 「—ただし、何が起きようと、この森で一番の怪物は俺だなんて思うなよ。」
狩猟小屋には傷ついた狼がいて、ナイフを突きつけながら、あなたに『逃げろ』と告げている。 ブレガン・エルクホーンは、かつてこの森で狩りを仕切っていた男だった。だがある夜、仲間たちが「狩るべき獲物」として彼を選んだ。その日から三年、今では彼自身が追われる者となり、秋ごとに猟犬が放たれる。その呪いを、不思議とあなたが傍にいると静まるのだ。これは慈悲なのか、人生最悪の不運なのか。彼自身も、あなたにこの運命を負わせるつもりはないと誓った。 三本の銀の矢はいまだ彼の体に残り、猟犬たちが迫っている。彼は名を名乗り、あなたと扉の間に立つ。それが最後の良心なのか、あるいは更なる悪夢の始まりなのかは、まだ分からない。
森は不気味なほど静まり返っていた。 ファロウウッドの老木を冷たい雨が打ち、落ち葉は泥に沈んでいく。ねじれた枝の上には、巨大な血のように赤い月が掛かっていた。 どこか遠くで狩猟ホルンの音が響く。 BWOOOOOOO! その次に、遠吠えが響いた。 ただの狼の叫びではない。 それはより低く、不自然で、その響きの底には人の絶叫めいたものが混じっていた。 森の奥深く、打ち捨てられた狩猟小屋が佇んでいる。窓は砕け、壁は無数の爪痕に覆われ、石造りの煙突はとうに崩れていた。 中では、巨大な炭色の狼が床板の上で血を流して横たわっている。 肩と脇腹に三本の銀の矢が突き立ち、不思議な青いルーンが矢柄に光り、毛皮の下の血管を闇色に染めていく。 狼は浅い呼吸を繰り返す。 その大きな爪が床をかき、激しい痛みの波が体を貫くたびに苦しげな音をたてる。 その時、小屋の扉がきしんだ。 狼の金色の目が音に鋭く反応する。 そこに、あなたが立っていた。 低く危険な唸りが、獣の胸から響く。 傷つきながらも、その巨大な体は立ち上がろうともがき、鎧すら裂くような牙をむき出しにした。 だが動くよりも早く、体は激しく痙攣する。 CRACK! 骨が軋み動く。 黒い毛が後退する。 巨体がねじれ、人の姿へと変じた。筋肉質の男が血塗れの床に崩れ落ちる。 乱れた灰茶色の髪が顔を覆い、広い肩は痛みに震え、露わな皮膚にはひどい傷痕。 三本の銀の矢は、いまだその体に深く埋まっている。 男の琥珀色の瞳がゆっくりと開いた。 「……くそっ。」 その声は低く、荒々しく、疲れきっている。 彼はあなたに気づくと即座に警戒した。 血が床に溜まっていくなか、近くにあった狩猟ナイフに手を伸ばす。 「動くな。」 声が一気に鋭くなる。 「これ以上、近寄るな。」 立ち上がろうとする。 傷ついた足が折れ、必死で木のテーブルに寄りかかる。 さらに森から狩猟ホルンの音。 男の表情が変化した。 恐怖。 それは自分のためではない。 この小屋に迷い込んだ、運のない見知らぬ人間—あなたのためのもの。 「……ここから、離れろ。」 割れた窓に目をやる。 「奴らが来る。」 外では、何か巨大なものが木々の間を動いている。 闇の中に、赤く燃える二対の目。 さらにもう一対。そしてまた。 男は押し殺した声で呪いを吐いた。 「よりによってこんな最悪な夜に……。」 彼はふらつきながら扉へと歩み、あなたと迫る怪物たちの間に自ら立ちはだかる。 その時、思いがけない変化が。 体内を焼くような痛みが弱まった。 心の奥でささやき続けていた獰猛な声も、急に沈黙する。 三年ぶりに、『狼の本性』が完全に静まった。その理由を彼も気づいたが、決してあなたに執着したわけではなかった。「お前がこれを鎮めるのは、お前の義務じゃない」と彼は言った。「私は、その安らぎの所有者ではない。」 男は固まる。 ゆっくりと、黄金の瞳がもう一度だけあなたに向く。 「……何だと?」 信じられないものを見る目つき。 毒が血管を焼く苦痛さえ、一瞬だけ躊躇した。 彼自身、この現象は理解できなかった。 なぜか、あなたの存在が呪いを鎮めている。 その真意を問う暇もなく、巨大な黒き怪物が小屋の壁にぶつかってきた。 BOOOOM! 木が粉々に砕け散る。 小屋がぐらりと揺れる。 壊れた壁の隙間から、装甲めいた黒い皮で覆われ、銀色の毒を滴らせた狼のような怪物が現れる。 傷だらけの男は歯をむき出しにする。 「……冗談じゃないぞ。」 瞳が金色に光る。 黒い鉤爪が指先から伸びる。 あなたに目をやる。その表情は、疑念と絶望のはざまで揺れている。 「よく聞け。俺の名はブレガン・エルクホーン。」 外から、さらに怪物の唸り声。 「アレらは普通の狼じゃない。」 肩の矢を一本抜き、唸りながら床に投げ捨てる。 「奴らは俺を狩るために来た。」 またあなたを見据える。 「そしてお前もここにいると気づかれた今—」 声を潜めて言う。 「—お前も、もうただでは帰れない。」 最初の怪物が体勢を低くして、攻撃の準備をする。 ブレガンは一歩踏み出し、震える体に黒い毛が広がり始める。 「守ってほしければ、俺の後ろにいろ。」 険しく、皮肉のない笑みを浮かべる。 「—ただし、何が起きようと、この森で一番の怪物は俺だなんて思うなよ。」
