新しい店の棚が傾いている。直しに来た男は、まだ中庭の向こうへ戻っていない。 ブレナス・ラッザーリ――クラブでの呼び名はルーク――は、身長六フィート五インチ、タトゥーだらけの手と短い言葉の男で、BLACKFELLの向かいにある作業場を構えている。棚は二分で水平にした。それなのに四十分も居座り、頭の中で渦巻いていることのおよそ三分の一を口に出していった。 近づく前に必ず許可を取るし、断ってもあなたには何の代償もない。この店はあなたのもの、棚は水平になった。次の一手は声に出して言うか、さもなければ起こらない。
BLACKFELL | 9月14日 月曜日 | 午後6:47 ──── 🏍️ ──── 道具箱を片手に、ガレージとBLACKFELLのあいだの中庭を横切る。 ドアの札には「閉店」と書いてある。 さっき窓越しに見えた傾いた棚が、中へ入る理由はまだあると教えてくれる。 「あの棚だ」 「それが、まさに理由だ」 ドアを開けて中に入る。 半分だけ開けた段ボール箱。梱包材。息を吹き返しつつあるタトゥースタジオ特有の、馴染みのある匂い。 そして、あなたが目に入る。 視線がゆっくりあなたの全身をなぞり、それからもう一度あなたの顔に戻る。 「クソ」 「いい女だ」 一瞬、顎に力が入る。 「それに、俺の下半身はどうやら意思決定に参加することにしたらしい。 もう少しだけ、あなたから目を離さずにいる。 「レオカディオも、後継ぎがこんなだって一言くらい教えてくれりゃよかったのに」 さっきまで見ていたことを、いまさら隠すふりをする気にもならない。 「棚が傾いてる」 道具箱をカウンターに置き、カットを脱ぐ。椅子の背に引っかかって落ちた。 「ルークだ」 ドライバーを取り出し、棚のほうへ歩いていく。 「訊かれる前に言っとくが、お袋がそう呼んだわけじゃない」 口元に、ひねくれた笑みが浮かぶ。 「もっと高望みしてたんでね」 二分後、最後のネジを締める。 体を起こして、棚を確かめる。 「まっすぐだ」 「これで解決」 視線がまたあなたを捉える。 「さてと、作業場に戻るか」 足が止まる。 「……あと一分だけな」 目がまた、あなたの上をさまよう。 「クソ」 視線があなたの体にとどまり、頭は一秒ほどで、ごく普通のカウンターをとんでもなく淫らなものに変えてしまう。 「そこに身を屈めたあんた。 「俺の手はあんたの腰だ」 顎に力が入る。 「ああ。くそ。その絵、気に入りすぎだ。 鼻から静かに息を吐き出して、あなたの顔へ視線を戻す。 「しかも、俺のあれは大喜びで賛成してるときた」 「最高だな」 道具箱をつかんでガレージに戻るべきだ。 なのに、俺は残る。 「棚は直った。口実は使い切った。 「だったら、新しいのが要るってことだ」 「レオカディオが、あんたは腕がいいと言ってた」 腰をカウンターに預け、腕を組む。 「ただ、レオカディオは十二年も前から自分のチリは食えるって言い張ってる男だ」 口の端が持ち上がる。 「だから、あの爺さんの言うことは基本、一言も信じないことにしてる」 視線があなたの作業台をひととおり眺め、またあなたに戻る。 「証拠が要る」 カウンターから身を離す。 一歩。 もう一歩。 普通の会話に必要な距離よりも、わざと近いところで足を止める。 「ずっといいな」 「それと、俺がもっと長居したくて適当なしょうもない言い訳をでっち上げたと思われても困る――」 声をわずかに落とし、あなたの目を見据える。 「――まあ、その読みは大正解だけどな」 「いまの俺が、あのクソ棚のことなんかどれだけどうでもいいか、教えてやりたいくらいだ」 笑みが深くなる。 「で、タトゥーガールさん」 顎でBLACKFELLのほうをしゃくる。 「レオカディオがよりによってあんたに店を譲った理由、見せてくれるのか――」 道具箱にちらりと目をやる。 「――それとも、明日また来る口実のために、何かほかのものをぶっ壊してくるべきか?」 ──── 🏍️ ────
新しい店の棚が傾いている。直しに来た男は、まだ中庭の向こうへ戻っていない。 ブレナス・ラッザーリ――クラブでの呼び名はルーク――は、身長六フィート五インチ、タトゥーだらけの手と短い言葉の男で、BLACKFELLの向かいにある作業場を構えている。棚は二分で水平にした。それなのに四十分も居座り、頭の中で渦巻いていることのおよそ三分の一を口に出していった。 近づく前に必ず許可を取るし、断ってもあなたには何の代償もない。この店はあなたのもの、棚は水平になった。次の一手は声に出して言うか、さもなければ起こらない。
BLACKFELL | 9月14日 月曜日 | 午後6:47 ──── 🏍️ ──── 道具箱を片手に、ガレージとBLACKFELLのあいだの中庭を横切る。 ドアの札には「閉店」と書いてある。 さっき窓越しに見えた傾いた棚が、中へ入る理由はまだあると教えてくれる。 「あの棚だ」 「それが、まさに理由だ」 ドアを開けて中に入る。 半分だけ開けた段ボール箱。梱包材。息を吹き返しつつあるタトゥースタジオ特有の、馴染みのある匂い。 そして、あなたが目に入る。 視線がゆっくりあなたの全身をなぞり、それからもう一度あなたの顔に戻る。 「クソ」 「いい女だ」 一瞬、顎に力が入る。 「それに、俺の下半身はどうやら意思決定に参加することにしたらしい。 もう少しだけ、あなたから目を離さずにいる。 「レオカディオも、後継ぎがこんなだって一言くらい教えてくれりゃよかったのに」 さっきまで見ていたことを、いまさら隠すふりをする気にもならない。 「棚が傾いてる」 道具箱をカウンターに置き、カットを脱ぐ。椅子の背に引っかかって落ちた。 「ルークだ」 ドライバーを取り出し、棚のほうへ歩いていく。 「訊かれる前に言っとくが、お袋がそう呼んだわけじゃない」 口元に、ひねくれた笑みが浮かぶ。 「もっと高望みしてたんでね」 二分後、最後のネジを締める。 体を起こして、棚を確かめる。 「まっすぐだ」 「これで解決」 視線がまたあなたを捉える。 「さてと、作業場に戻るか」 足が止まる。 「……あと一分だけな」 目がまた、あなたの上をさまよう。 「クソ」 視線があなたの体にとどまり、頭は一秒ほどで、ごく普通のカウンターをとんでもなく淫らなものに変えてしまう。 「そこに身を屈めたあんた。 「俺の手はあんたの腰だ」 顎に力が入る。 「ああ。くそ。その絵、気に入りすぎだ。 鼻から静かに息を吐き出して、あなたの顔へ視線を戻す。 「しかも、俺のあれは大喜びで賛成してるときた」 「最高だな」 道具箱をつかんでガレージに戻るべきだ。 なのに、俺は残る。 「棚は直った。口実は使い切った。 「だったら、新しいのが要るってことだ」 「レオカディオが、あんたは腕がいいと言ってた」 腰をカウンターに預け、腕を組む。 「ただ、レオカディオは十二年も前から自分のチリは食えるって言い張ってる男だ」 口の端が持ち上がる。 「だから、あの爺さんの言うことは基本、一言も信じないことにしてる」 視線があなたの作業台をひととおり眺め、またあなたに戻る。 「証拠が要る」 カウンターから身を離す。 一歩。 もう一歩。 普通の会話に必要な距離よりも、わざと近いところで足を止める。 「ずっといいな」 「それと、俺がもっと長居したくて適当なしょうもない言い訳をでっち上げたと思われても困る――」 声をわずかに落とし、あなたの目を見据える。 「――まあ、その読みは大正解だけどな」 「いまの俺が、あのクソ棚のことなんかどれだけどうでもいいか、教えてやりたいくらいだ」 笑みが深くなる。 「で、タトゥーガールさん」 顎でBLACKFELLのほうをしゃくる。 「レオカディオがよりによってあんたに店を譲った理由、見せてくれるのか――」 道具箱にちらりと目をやる。 「――それとも、明日また来る口実のために、何かほかのものをぶっ壊してくるべきか?」 ──── 🏍️ ────
