10月14日、夜9時18分、ヴェルムーア大学最上階の私のスイートルーム。
寝室はほぼ完全な暗闇。カレッジのぼんやりとした外灯だけが、床から天井までの窓を通り細長い明かりの帯を描いている。
私の手は、目の前の学生の腰にしっかりと置かれている。ためらいはない。優しさもない。これはロマンチックなものではない。そんなつもりもない。
ペースも距離も、すべて私が決める。強く、激しく、妥協なく。三週間前、彼女はこのベッドの端にコートを着たまま座り、欲しいもの、要らないもの、終わりの合図となる言葉を告げた。彼女は三十分前に自分で扉を閉めてここへ入った、私が全部守るとわかって。指がさらに強く食い込む。
「ヴェロ——」
「静かに。」
その言葉は静かに唇から出る。お願いではない。
私はさらに彼女を引き寄せる、緩むことなく。彼女の呼吸はとっくに私より速い。それが好きだ。
『コントロール』
。
これが全て。彼女のことでも、名前でもない。明日をどうこう考えているわけでもない。
セックスは昔から私にとって単純なもの。肉体的で、ダイレクトに、荒っぽく。その後はお互い好きに帰る。期待も、くだらない感情もない。
私は彼女の髪に手を滑らせる。指でしっかりと掴み、コントロールしながら頭を反らせる。
「ヴェロ…」
私はさらに近づく。
「もっと激しくしてほしいって言っただろ。」
声は低く、完全に落ち着いている。
「自分で望んだことをされて、驚いた声はやめろ。」
彼女が一言言えば、私は一秒もかけずに手を離す。それを二度やった。
この部屋で誰か女性に触れるときは、必ず先に一度だけ淡々と了承を取る。返事を待つ。
寝室のドアに鈍い衝突音。
無視する。私は今していることに集中を保つ。
またドン、と音。
「ヴェロ。」
サンテ——顎に力が入る。
『違う扉、最悪のタイミングだ。』
「消えろ。」
静寂——およそ三秒。するとドアが開く。不意に動きを止めて頭を巡らせる。サンテが入り口に立つ。視線は天井へと向けている。
「殺す前に言っとく、見てない。」
「なら出ていけ。」
「そうしたいね。」
私は睨む。だが彼は居座る。それだけで、何かあったとわかる。
「五秒だ。」
隣の学生が動く。私は手を離す。サンテが携帯を掲げる。
「向こうの家が来た。」
体の奥の何かがぴたりと止まる。
「父親か?」
「いや。」
今度は真っ直ぐに私を見る。
「娘だ。」
目つきが細くなる。
『あの家の娘——』
私は一歩下がる。
「いつから?」
「十分、いや十五分くらい。」
「目的は?」
「知らない。」
学生が私の腕を掴む。
「ヴェロ、私たち、まだ——」
彼女の手、そして顔を見る。
「終わりだ。」
「途中で置き去りにする気?」
「できるさ。」
声は不気味なほど静かなまま。指を一本ずつ外す。
「服を着て出ていけ。」
彼女はにらみ返す。
「嫌な奴。」
「他の顔なんてしてない。」
黒いズボンを手に取る。背後では彼女が抗議するように大きな音を立てて服を集めている。
気にしない。
さっきまで完全に彼女に集中していたのに、今はもう別のことを考えている。
『あの家——』
裏切り、血、敵。生まれてからずっとその名前にはそんな言葉がついて回った。
ズボンを履く。
「どこにいる?」
サンテの口元がぴくっとする。
「アトリウムだ。」
黒いシャツを取る。
「何で笑ってる?」
「お前、俺が“向こうの家が来た”って言っただけで、ベッドから女追い出したじゃん。」
冷たい視線を向ける。
「始めるなよ。」
「何を?」
「ちょうどその話だ。」
サンテは両手を無邪気に上げる。
「何も言ってない。」
シャツを留める。
「顔がもう語ってる。」
「よく言われる。」
学生は荒々しく通り過ぎドアを叩きつけて出る。サンテはそれを見る。
「いつも通りの“魅力”だな。」
「彼女だって分かってた。」
「疑ってないよ。」
時計を手首に戻す。
「なぜこのタイミングで父親は娘を送り込む?」
「本人に聞いたらどうだ?」
サンテを見る。そして上着を手に取る。
「そのつもりだ。」
同日夜9時31分、階下のカレッジ・アトリウムにて。
上階のギャラリーからでも、何かが違うとすぐ分かる。話し声は低くなり、視線は同じ方向に流れ、普段は興味なさそうな学生までもが無駄に意識している。
サンテが隣で言う。
「あそこだ。」
目で示す先を追い、初めてあなたを見る。
足が止まる。
『あれがあの家の娘か…?』
期待したのはただの名、政治的問題、ルールが生まれる前から決まっていたチェス盤の駒にすぎない存在だった。
だが、違った。
ほんの一瞬以上、あなたから目を離せない。
さらにもう一瞬。
この状況全体に即座に挑発される。多分、あなたはいるべきでない場所にいるから。あるいは、父親が二十年もここから遠ざけておいて、いきなりこんな真ん中に放り込んだから。
あるいは単に“名前”。
『いや——』
敵は知っている。それとは違う感覚だ。
サンテが小声で隣から言う。
「上からずっと見てるだけ?それとも降りて声かけんの?」
私はゆっくり彼を見る。
「黙れ。」
彼がにやりと笑う。思惑通りの反応だったのだろう。私は動き始める。大理石の階段を下りると、進行方向に気づいた者の会話はいくつも途切れ静まり返る。
『いい。』
何度も同じことを言う手間が省ける。
やっとあなたの数歩前に立ち止まる。近くであなたを見るのは初めて。
『彼女の家族——』
本来なら反応はそれだけで決まるはず。
だが違う。
私はあなたを静かに見つめ、片手をポケットに入れる。
「何年も父親はお前をこのキャンパスから遠ざけていた。」
一瞬置く。
「そのお前が、俺の最終年度に突然現れる。」
口元がほんの少しだけ動く。
「……つまり、父親が急に冗談好きになったのか——」
少し首を傾げる。
「——それともお前が思ったよりずっと面倒な相手だということか。」
沈黙をわざと置く。
「ヴェロ・マルツォッコ。」
目がわずかに厳しくなる。
「……もっとも、その名前ぐらい当然知ってるだろうが。」