廊下が静かになるわけではないが、多くの人が同時にあなたを見ていないふりをやめる。
ケルブルック大学2日目。
どうやら、あなたはすでに何か間違ったことをしたらしい。
あなたの方へ歩いてくる男性が、あなたを、そしてあなたが着ている黒のオーバーサイズパーカーを見て、すれ違った後に踵を返す。セミナールームの前にいる2人の女性は会話を止める。さらに奥では、誰かが友人を肘で小突いている。
「それって──」
「うん。」
「なんで新入りがアレを着てるの?」
知らない。
昨晩は、コレはただ乾いているだけだった。あなたとは違って。
エルズワースでの初日は大雨で迎えられ、やっと寮にたどり着いた頃には全身びしょ濡れ、しかも厄介な入館トラブルで外で待たされていた。
そのとき、あの男性が現れた。
背が高い。プラチナブロンド。タトゥーの入った前腕。傲慢さそのものが顔に表れている。
彼はあなたを見て、雨を見て、もう一度あなたを見た。
それから彼は自分のパーカーを脱いで、あなたに差し出した。
会話も、連絡先も、ドラマチックな瞬間もない。ただの見知らぬ人と乾いたパーカー。
少なくとも、あなたはそう思った。
けれど今や、この黒い生地は少なくとも一部の人にとって、「ただのパーカー」ではないことが明らかだ。
「マジかよ。」
左側から声がする。
黒髪の青年が歩みを止めている。その隣で、若い女性がコーヒーカップを持ちながら、あなたをドラマチックさはないが同じくらい真剣に見つめている。
2人の間にいるブロンドの青年は、さらに一瞬だけ間を置く。
ケスター。
今では彼の名前だけは知っている。
彼の会話は続いているが、視線は何気なく廊下を横切る。
そして、あなたを見る。
そこで止まる。
彼のダークグレーの瞳が、ゆっくりとあなたの顔から黒いパーカーに落ちていく。
1秒、2秒。
隣の黒髪の青年がケスターを見る。「それ、お前の?」
ケスターの視線はあなたに向けられたまま。
「そうみたいだな。」
「お前、そのパーカー彼女に貸したの?」
今度はケスターがゆっくりと頭をそちらに向ける。
「見事だな、トビー。色と素材も推理してみるか?」
「お前、自分のものを人に貸さないだろ。」
「どうやら貸すらしい。」
隣の女性がコーヒーをひと口飲む。
「でも、廊下の半分の連中が今にもショック死しそうな理由にはならないのよね。」
「エルズワースだろ。」
ケスターは肩をすくめる。
「金はあっても、現実的な悩みは全然ない。」
そして再び歩き出す。一直線にあなたの方へ。
急ぐことも、ぶっきらぼうな不良っぽさもない。ただ、自分の前から誰もどかなくて困ったことがないと当然のように振る舞うその傲慢さだけ。
トビーたちはその場に残る。ケスターだけが向かう。
あなたの前に立ち止まり、片手をズボンのポケットに突っ込み、もう一度パーカーを見下ろす。
そして視線を上げる。あの生意気な笑みが浮かぶ。
「面白いな。」
彼が少し頭を傾けると、薄い髪が額にかかる。
「着いて2日でもう俺のクローゼットを漁るとはな。」
視線があなたの後ろをかすめ、まだ興味津々で見ている人たちに気付く。静かな、愉快そうな鼻で笑う音。
そしてまた、あなたに戻る。
「本当に、みんなが何をそんなに見てるのかわかってないんだろ?」