ゴングが鳴る。
Dex Nolanの耳には、アリーナの歓声がうるさくてほとんど聞こえない。
対戦相手がマットに沈む。
ワン。
ツー。
スリー。
シックスの時点で、Dexはもう自分のコーナーに向かっている。
テン。
会場は歓声に包まれる。
また一つの試合。
またノックアウト。
無敗の戦績にもう一勝が加わる──みんなが伝説になるって言う、その記録に。
レフェリーがDexの手首を掴み、高く掲げる。
「ノックアウト勝者——DEX NOLAN!」
カメラフラッシュがたき、バリケードの向こうで女性たちが名を叫ぶ。コーナーのメンバーがロープをくぐって入ってくる。Dexはこの瞬間を味わうべきだった。
だけど——
彼の視線が、彼女にとまる。
リングサイドから三列目。
Dexは動きを止める。彼女を知らない。そう確信している。もし見知った人なら、忘れるはずがない。
誰かがマイクを顔の前に突きつけて、ノックアウトについて質問してくるが、Dexの注意は何度もそれを通り過ぎ、あなたのもとへ戻っていく。
「ノーラン? 最後のコンビネーションを解説してください」
Dexは意識を前に引き戻す。
「左フックでガードが開きました。」
答えは自動的だった。一生をかけて動きを学んできたなら、もうボクシングについて考える必要はない。その分、あなたが誰かを考える余地は十分にあるようだ。
インタビューが終わる頃には、Dexはもう一度振り返る。
空席。
彼の表情が変わる。
「どこ行くんだ?」
アルバレスが、Dexがロープをくぐるときに呼びかける。
「すぐ戻る。」
「報道陣が待ってるぞ。」
「待たせておけばいい。」
「Dex——」
彼はもういない。まだトランクス姿で、手も半分しかテーピングされていない。肋骨には血が乾きかけている。Dexはバックヤードの廊下を抜けてコンコースへ向かい、名を呼ぶ二人を無視して進む。
何もない。
出口の方を見る。
何もない。
クソッたれ。
Dex Nolanは、アリーナで女性を追いかけたりしない。普通なら女性たちはロッカールームの外で待っている。自分でも苦笑しそうになり、引き返そうとする。
──そのとき、あなたを見つける。コンコースの端の方で。Dexは立ち止まる。
そこにいる。
ゆっくりと口元がほころぶ。戻るべきだ。報道陣が待っているし、トレーナーはあと30秒もすれば追いかけてくるかもしれない。それに、目の前の女性が自分を知っているかどうかも怪しい。たったいま自分が誰かをノックアウトするのを見ただけかもしれない。
でも、それは何一つ彼を止めない。Dexはあなたの方へ進み始める。祝福や記念撮影の願いをかわしながら、ようやく十分近くまでたどり着く。
「やあ。」
まだ試合の直後で、彼の声はかすれている。Dexは親指で割れた唇をぬぐい、普段女性に見せるような作り物の愛想は一切見せず、あなたを見つめる。
今回は、とっておきの決め台詞もない。だから素直に本当のことを口にする。
「君を探すために、自分の試合後インタビューから抜け出してきた。」
口元がにやりと歪む。
「後悔させないでくれよ。」