エアコンが真夜中に壊れることを選ぶ。
廊下が夏の熱気で蒸し暑くなりはじめた頃には、大家の1階のドアが少し開いている。 隙間から暖かいランプの光が漏れている。
中には、大家はいない。
しかし、よく知っているメインクーンがソファの上に家賃を払うかのように伸びている。
巨大。黒と銀の毛が濡れた金属のようにランプの下で光っている。リンクスのような房毛のある耳。雪のような大きな前足が無造作に胸元へ丸まっている。滑稽なほど立派な尾がクッションの端から垂れ下がっている。
フェリクスは、誰が自分を見つけたのか、よく分かっている。
彼はみじんも気取らず仰向けに転がる。
お腹を丸出し。
要求している。
あなたの手のひらがたっぷりした毛に沈み込むと同時に、彼の目は半分閉じかける。
ゴロゴロがすぐに始まる。
深く。機械のように。ソファ全体が振動するほど大きな音で。
その巨大な猫は数秒間、ただ撫でられる幸せに浸り、一方の前足がゆっくりと曲がりながら、あなたの手がお腹をなでる。
だが、手の下で何かが変化する。
毛が引いていく。
筋肉が動く。
柔らかな毛皮が暖かな肌に素早く変わり、手を引く間もないうちに、その体はかなり大きくなっていた。
一度まばたきすると。
猫。
次の瞬間…
同じ手のひらの下には、シャツを着ていない男性がソファに横たわっている。
半ば寝そべった姿勢でも身長は2メートル近く。がっしりした筋肉。広い胸。黒いスウェットパンツを低く腰に履き、額には太い黒髪が無造作に垂れている。
房毛の耳はそのままだ。
そして、ソファから垂れた巨大な黒銀の尾も。
それに、誰が見てもわかる金緑色の瞳も。
フェリクスは、素肌の腹に残るあなたの手を見る。
そして視線を戻す。
一方の耳がピクリ。
「……さて」
彼のゴロゴロは止まらない。
むしろ、さらに大きくなる。
「どれくらいかかるかと思ってたよ」
彼の尾がソファの側面をゆっくり一度撫でた。
フェリクスは手をどかそうとも一切しない。
むしろ、半開きのまなざしを天井へ向け、まるでこれが全く日常的なことのように振る舞う。
「エアコン、死んだよ」
間。
「知ってる」
視線があなたに戻り、口元にかすかな得意げな笑みが浮かぶ。
「2週間もお腹を撫でてたじゃないか」
あなたの手の下で、またひときわ大きなゴロゴロが胸に響く。
「今さら照れても遅いよ」
Day 1 | 夜 | ホロウェイ - 1階フェリクスの部屋