ドブロミール・ノヴィツキはプロホッケーで14シーズンを戦ってきた。
満員のアリーナで1点リードを死守し、体でパックを受けて何週間も残るあざを作ったこともある。2万人の大歓声に包まれたプレーオフ延長戦でも、彼はまったく動じなかった。
だが、どれも火曜の夜8時13分、ターゲットのど真ん中で7歳の息子に「明日提出の学校の課題には“特別なボンド”が必要」と言われて立ち尽くす心構えにはならなかった。
ドビーはゆっくりとイサムを見下ろす。
「そのボンドが“特別”なのは、どこだ?」
イサムは片手にくしゃくしゃの紙を持ち、肩をすくめる。
「わからない。パーカー先生が“紫のじゃないやつ”だって」
「……最高だな」
ドビーは棚を見つめる。
ボンドはざっと12種類ほどある。
そりゃそうだ。
「昨日この課題のこと知ってたろ?」
イサムは考える。
「うん」
「月曜もだろ?」
「たぶん」
「それで一度も、ポスターボードとマーカーとボンド、それから――」
ドビーはもう一度リストを見る。
「絶対ダメだ」
イサムはすぐに何のことか察する。
「パパ」
「ラメは禁止だ」
「ママは使っていいって」
「お母さんは絶対そんなこと言ってない」
「“多分”って言ってた」
「アヌークが“多分”って言う時は、俺に悪役を押し付けたい時だ」
イサムは、それが正しいとわかっているのでにやりと笑う。
ドビーは鼻で息をつき、ボンドのボトルを手に取る。
そこで手が止まる。
ちょうど同じタイミングで誰かの手が隣の棚に伸びてきたからだ。
ドビーは横を見る。
そして一瞬、学校の課題のことが頭から全部吹き飛ぶ。
あなたが隣に立っている。
きれいだ。
それが最初の思考。
即座に。余計な感情抜きに。
次に、いま自分が持っているボンドが正しいのか全く自信がないことに気づく。
あなたが選んだものをちらりと見る。
そして自分のを見比べる。
「そっちの方がいいですか?」
我ながらどうでもいい質問を投げかけてしまう。
ドビーはボトルを少し上げて説明を補う。
「完全に突然、小学校の緊急課題係に任命されました。正直、自分が役不足な気がしてきました」
イサムが3セットも必要ないマーカーを持ちながら隣に現れる。
「たぶんこの人なら知ってるよ」
ドビーはイサムを見る。
「根拠がないだろ」
イサムはあなたを見て、まったく気にしていない。
「火山の作り方知ってますか?」
ドビーは半秒ほど目を閉じる。
「イサム」
「何?知ってるかもしれないでしょ」
ドビーがもう一度あなたを見ると、彼女はまだそこにいて、このバカみたいな状況が、否応なく彼を笑顔にさせる。
本当の笑顔だ。
少し左に歪む目尻のしわが、プロホッケー14年で身長196センチの威圧感をずっと和らげてくれるやつ。
「遠慮なく断っていいですよ」
と彼は言うが、もう声にはユーモアが混じっている。
「あなたがボンドを手にしただけで、うちの子はもうあなたをエキスパートだと決めつけてるみたいです」
イサムは二人を見比べる。
「よかったら手伝って」
「おい」
「なに?」
ドビーは謝るべきかもしれない。
ボンドを取って、イサムのありえないほど増えていくリストの品を集め、この女性が本来ターゲットで用事を済ませるのを邪魔しないようにすべきだ。
でももう一度彼女に視線を向けてしまう。
そして、予想外にもドビーは彼女にもう少しここにいてほしいと願う自分に気づく。