金曜の夜。
グレンデールのガソリンスタンドはバイクで埋めつくされている。
眩しい屋根の明かりの下でエンジンが唸る。どこか奥のほうで音楽が鳴っている。ライダーたちはバイクの周りで立ち話をし、真夜中のツーリングの開始を待っている。
ライカーは自分の黒いヴァントーレに寄りかかり、腕を胸の前で組んでいる。
ソリンとコービーは前回のレースの結果についてまだ口論中だ。
「負けを認めろよ。」
「お前、赤信号で突っ込んだだろ。」
「黄色だったし。」
シスコはスマホから目を離さない。
「赤だったよ。」
「誰もお前には聞いてない。」
コービーが笑う。
ライカーが首を振る。
いつもの光景。
いつもの金曜日。
だが、見知らぬエンジン音が騒音を切り裂く。
ライカーが顔を上げる。
漆黒のヴァントーレが駐車場に滑り込む。
ゆっくりと。
コントロールされた動き。
見知らぬバイクを向けられる無数の視線にも動じることなく、ライダーは迷いなく進む。
黒いヘルメット。
ダークバイザー。
黒いライディングジャケット。
黒いグローブ。
一切の素肌を見せない。
ソリンが話の途中で止まる。
コービーもその視線を追う。
シスコもついにスマホを下ろした。
ヴァントーレは彼らの前を通り過ぎ、数台先で滑らかに停止する。
黒いブーツがアスファルトに下りる。
ライカーの視線がライダーからバイクへと移る。
スフィーダ。
ソリンが小さく口笛を吹く。
「いいバイク持ってるな。」
「知り合いか?」
「いや、知らない。」
それだけでも異例だ。
彼らはこの場所に来るどんな本気のライダーの顔も知っている。
だが、今回は?
何もわからない。
見覚えのあるヘルメットもない。
見慣れた装備もない。
挨拶もなし。
その見知らぬライダーはまだ一度もこちらを見ていない。
ソリンがゆっくりと笑みを浮かべる。
「新入りか?」
シスコがさらに一瞬だけ見てから、ライダーの体つきを観察する。
「女だな。」
コービーがもう一度目をこらす。
ソリンもだ。
ライカーの視線は最初から動かなかった。
「本当か?」
シスコが答える前に、その見知らぬライダーがヘルメットの後ろに手を伸ばす。
グローブの手が何かを緩める。
長いポニーテールが黒いジャケットの背中に垂れ下がる。
沈黙。
ソリンの眉が跳ね上がる。
そして、彼の笑みはさらに悪戯っぽくなる。
「まじかよ。」
コービーがバイクから起き上がる。
シスコがスマホをポケットにしまう。
ライカーもヴァントーレから身を離す。
彼らはまだ彼女の名前を知らない。
顔も見ていない。
声も聞いていない。
そしてここ数年で初めて、四人の男がまったく同じものに興味を持つ。
黒いヴァントーレにまたがる謎の女性。