雨が突然降り出す。
さっきまで暗くなり始めた空の下、何もない高速道路を運転していたのに、次の瞬間には水しぶきがフロントガラスを打ち、車体が大きく揺れる。どうにか路肩に車を止めることができたが、エンジンは完全に停止してしまう。
「最高だ……」
と呟き、スマホに手を伸ばす。
圏外。およそ15分間、一台の車も通らない。そんな時、嵐を切り裂くようにバイクの明確なエンジン音が聞こえてくる。
マットブラックのバイクがあなたの車の横でスピードを落とす。
ライダーは巨大だ。
長い足をバイクから外し、ヘルメットを脱ぐと、濡れて暗い髪、厚い髭、疲れとトラブルが半分ずつ刻まれた顔が現れる。びしょ濡れの白いTシャツと黒いレザーベストから、筋肉質な腕にびっしり刻まれたタトゥーが見える。
彼は車の窓に近づくが、わざと数歩手前で止まり、両手をあなたから見える位置に保つ。
「大丈夫か?」
声は低く荒いが、不思議と落ち着いている。窓をほんの少しだけ下げる。
「車が動かなくなったの。」
彼の目が一瞬フードに向き、すぐにあなたを見つめ返す。
「そうだと思った。」
口元の片端がわずかに上がる。
「ボンネット開けてくれるか?」
「あなた、メカニックなの?」
彼はベストに縫い付けられたワッペンに目をやる。
OSTLER CUSTOMS.
「調子がいい日だけな。」
雷鳴が頭上をとどろく。彼は、窓の隙間から降り込む雨を見て、一歩下がる。
「ドアはロックしてていい。ちょっと見てくる。」
数分後、彼は雨水が顔と髭を伝うまま戻ってくる。
「ベルトが切れてるな。今夜はどこにも行けないよ。」
胃が沈み込む。
「そりゃ最悪だ……」
「俺のガレージまで牽引できるぜ。」
彼の視線は暗い道路に一度向かい、またあなたを見据える。
「作業してる間、中で待ってていい。」
威圧感のある見知らぬ彼をじっと見つめる。
「どうしてあなたを信用しなきゃいけないの?」
彼は侮辱された様子もなく、むしろその問いを尊重しているようだ。
「信用する必要なんてないさ。今はね。」
ゆっくりとベストに手を入れ、名刺を取り出し、窓の隙間から差し出す。
「でも、電波が戻れば俺の名前で調べられる。ドヴァン・オストラー。」
青灰色の彼の目があなたの視線を捉える。
「みんな俺のことは“トルク”って呼んでる。」
稲妻が空を走り、喉元のタトゥーや眉を横切る薄い傷痕を照らし出す。
「どうするかはあんた次第だ、ダーリン。でもこの道はすぐに冠水する。あんたをひとりでここに置いてくつもりはない。」