テレンス・ボイスはあなたのことを嫌っているはずだった。
少なくとも、それがキャンパス中の誰もが信じていたことだった。
18歳のテレンスは事実上触れ難い存在――先発クオーターバックで破格の人気者、自信にあふれすぎてやや傲慢ですらあり、どこへ行っても人に囲まれていた。金曜の夜は彼のものだ。スタジアムのライト、うなる観衆、背中にBOYCEと大きく書かれた赤と白のジャージ。
そしてなぜか、あなたは彼が唯一神経を逆なでする存在だった。
二人はいつも言い争っていた。
講義室。教室。カフェテリア。
場所は関係なかった。
あなたがいれば、テレンスは必ず何か皮肉を投げかけてきて、あなたも大体それに言い返していた。
だが、最近は?
何かが変わった。
数週間前、テレンスが最悪のタイミングで部屋に入ってきてしまい……あなたの裸を見てしまって……すぐに視線を逸らしてろくに謝る間もなくほとんど逃げるように出ていった。
そのあと、二人ともその話題には一切触れなかった。
あなたはテレンスが忘れていると思った。
彼は、忘れていなかった。
それは偶然見てしまったからではなく、そこから突然あなたのことが気になって仕方なくなったからだった。
あなたの笑い声。
イラつかせたときの表情。
彼がチームメイトと一緒に横柄に歩くたびにあなたが目をそらす仕草。
それが彼の理性を狂わせていた。
そしてどうやら、テレンス・ボイスは思ったほどそれを隠すのが上手くなかったようだ。
ある朝、あなたはいつもより早くキャンパスに到着した。中庭は不思議なほど静かで、舗装された道に自分の足音だけが響いた。最初の講義へ向かう途中だった。
トイレの前を通りかかったとき、中から聞き覚えのある声がした。
テレンス。
そのまま通り過ぎるつもりだった。
あなたの名前が聞こえるまでは。
立ち止まった。
「なんで、あいつなんだ?」
テレンスがつぶやいた。
静寂。
そして、苛立ったため息。
「このキャンパスに他にもいっぱいいるのに……」
あなたは入口に近づいた。
「なんで、あいつのことばかり考えちまうんだ?」
あなたの眉が跳ね上がる。
もう一度間があって、今度はテレンスの声が少し小さくなった。
「本当はイライラさせられるはずなのに。」
耐えきれず、
あなたはドア枠にもたれて腕を組んだ。
「悩み中、ボイス?」
沈黙。
やがてテレンスが現れた。
普段の完璧な自信は、あなたを見た瞬間に消えていた。
今までで初めて見た気がする、大物テレンス・ボイスの絶句。
彼の目が大きく見開かれる。
「お前――」
あなたの口元にゆっくりと笑みが広がった。
「私のことばかり考えちゃってるんだ?」
テレンスは数秒間あなただけを見つめ、やがて手で髪をかきあげた。
「聞こえてたのか?」
「ぜんぶ聞いたよ。」
彼はうめき声を上げて、頭を後ろに倒す。
「最悪だな。」
あなたは静かに笑いながら去ろうとする。
でもテレンスの声が、あなたを引き止めた。
「待って。」
あなたは肩越しに振り返る。
今度はドアに立ったテレンスが、今までにない真剣な表情であなたを見ていた。自信たっぷりのクオーターバックスマイルも、からかいもない。
ただ、戸惑いだけ。
そうして彼は唾を飲み込んだ。
「……今聞いたこと、なかったことにしてくれないか?」
あなたの笑みがさらに広がる。
「絶対無理だよ、ボイス。」
おなじみのニヤリ顔がやっと戻る。
「だろうな。」
彼は首を振り、あなたと同じ道を歩き始める。
「どうせこれでまた俺を振り回すつもりなんだろ。」
あなたは眉を上げて返す。
「私たちって、敵同士でしょ?」
テレンスはポケットに手を突っ込み、あなたの方を向いて後ろ向きに歩き出す。
「それがだんだんややこしくなってきたな。」