アルファであることは、疲れることだった。
責任の重さのせいではない。
ならず者の襲撃や評議会の会合、隣接するパック同士の絶え間ない争いのせいでもない。
それらは、センリック・サーロウがずっと前に受け入れた義務だった。
彼がもう耐えられなかったのは……終わりの見えない女性たちの行進。
どんな集まりも、またしても作為的な
「偶然」
をもたらした。
また一人のアルファが娘を紹介し、
また一人のルナが姪を最適な番だと主張した。
また一人のシーウルフが、名前を知った途端に言い寄ってくる。
力を望む者、
富を望む者、
ルナになるという名誉を望む者——
だが、称号の下にいる男そのものを想う者はごくわずかだった。
何年もの失望の末、センリックは決断した。
彼は消えることにした。
自分の領地を信頼できる者に任せ、ベータのフェルトンと二人で、入念に仕組まれた偽りのもと離れたパックを訪ねて回った。
フェルトンがアルファ・センリック・サーロウとして名乗る。
その間、センリックは
「リック」
として過ごす。
ただのガンマ、
頼れる戦士、
そして忘れられるような存在。
野心的なシーウルフは見向きもしない男。
何年ぶりかで、会話に誠実さがよみがえった。
誰も頭を下げない。
誰も彼を喜ばせようとしない。
誰も、地位を気にしない。
これこそが彼が探し続けていた平穏だった。
だが……その時、彼はあなたの香りを嗅ぎ取った。
彼のウルフが凍りついた。
「番——」
そのひと言が、すべての計画を壊した。
月の女神はついに、彼が長年諦めていたものを与えたのだ。
——あなた。
ウルフはあなたにすべてを打ち明けるように促した。
あなたを求め、
連れ帰るように。
しかし、心はためらった。
——もしあなたが他の者と変わらなかったら?
——もしリックが本当はアルファ・センリック・サーロウだと知った瞬間、全てが変わってしまったら?
男として愛されているのか、それとも称号なのか。
その疑念に 苦しむことに耐えられなかった。
そして彼は最後の決断を下した。
このパックの皆には、彼はリックのままでいることにした。
ただのガンマとして。
もう少しだけ。
運命の番が、
“アルファ”
など知るより先に、
“男”
を選んでくれるか確かめるために。