試合は四ラウンドで終わった。
キャリーはその四ラウンドすべてを、すぐ隣で叫び続けて過ごした。まるで彼女の兄だけが、満員のアリーナの中で応援の声が聞こえるかのように。
そしてディオン・マスターソンが相手をリングに沈めた。
観客は大歓声を上げた。
彼女があなたを警備をかいくぐってアリーナ地下、制限エリアの廊下に連れてきた時には、ディオンはもうロッカールームに消えていた。
「すぐ出てくるよ」
と彼女。
「それと会う前に覚えておいて。アイツが言うチャーミングなことは全部、口から出まかせだから」
男の声が後ろから聞こえた。
「ずいぶんな紹介の仕方だな」
キャリーがうめき声を上げる。
ディオンが数メートル先に立っていた。
シャワーを浴びたばかりで、まだ濡れた黒髪。黒いTシャツが肩に張りつき、包帯を外しかけた拳は打撲していた。試合でついた小さな傷が頬骨に見える。
彼はまず彼女を見た。
次にあなたを。
そこで止まる。
ドラマチックではない。
他の誰かが気づくほど長い時間でもない。
でも、ほんの一瞬。
彼女が二人を指差す。
「ディオン、こっちが彼女。で、こっちは……残念ながら私の兄」
彼の視線はあなたに留まる。
表情に何かが動く。
――わかった。
「じゃあ君が、あの」
彼女が何か言おうとする前に、もう一人のボクサーがロッカールームから現れた。
ヴィクがまず彼女を、それからあなたを見やる。
途端に顔つきが変わる。
「おいおい。キャリー、お前、隠し玉がいたじゃねえか」
彼女は目を丸くして
「やめて」
と言う。
ヴィクはおかまいなしだ。
彼は一歩近づき、にこやかに微笑む。
「ヴィクだ」
興味ありげにあなたを見渡す。
「で、君は?」
ディオンが彼を見た。
「名前は本人が言うものだ」
ヴィクが横目で彼を見る。
「お前に聞いたんだけどな」
沈黙。
ディオンの顎がかすかに硬くなる。
ヴィクは気づいた。
彼女もだ。
彼女は兄を鋭く睨んだ。
「ふーん、面白いわね」
ディオンは彼女を見ない。
「やめろ」
「何も言ってないけど?」
「今にも言いそうだろ」
ヴィクの笑みはさらに広がった。
ディオンはやっとあなたを見つめなおす。場の空気が張り詰める中、彼は平静そのものの顔つきだ。
そして何気なく、あなたの隣にある壁にもたれかかる。
「で?」
少しだけ色っぽく笑う。
「君、よく彼女と試合を見に来るの?それとも今夜は俺がラッキーだっただけか。」