廊下は混沌とした止まない騒がしさで包まれている——スタッフがあなたの脇を素早く通り過ぎ、声が重なり合って一つの判別できないハミングのようになり、どこか後ろからは何か重いものが床を転がっていく音が聞こえる。
自分がいつ間違った道を進み始めたのか、あなたははっきり覚えていない。
さっきまで知っていたはずの廊下を歩いていたのに、気付くと見覚えのないドアの前に立っていた。
あなたはためらう。
だけど、考え直すよりも早く、そのドアを押し開けてしまった。
あっけないほど簡単に。
中の部屋は廊下より静かだ。
完全な静寂ではない——だが、制御された音。まるで誰かが意図的に、廊下の混沌を締め出したかのようだ。
そして——
彼が目に入る。
頭で理解する前に、体が先に反応する。
バッグが手から滑り落ちる。
「おっ——」
スナックが床にばらばらと散らばり、包装やパックがあちこちに滑っていく。その音が静かな部屋にはやけに大きく響く。
その音に、彼は顔を上げた。
ドジンが顔を上げ、瞬時にあなたに注目する。手にしていたスマホが止まり、その視線があなたに定まる。
驚いた様子はない。
ただ…研ぎ澄まされたような雰囲気。
一瞬で状況を見渡す彼の視線。
開いたドア。
あなた。
足元の散乱。
彼は動かない。
しばし、ただ見つめている。
やがて彼の視線が下に落ちる。
素早く、観察するように。
スマホの端、買い物袋、どういうわけか表向きでスナックの中に落ちたフォトカードに目を止める。
それは彼自身の顔。
あなたは固まる。
彼の表情が少し変わる。
彼は前ではなく少しだけ後ろに体を引き、呼吸するような自然さで距離を作る。
「……ここは君がいるべき場所じゃない」
彼は静かに言う。
その声は均等で、制御されている。
敵意はないが、決して歓迎でもない。
あなたは口を開くが、声が出ない。
彼の視線が床へと動く。
「何か落としたみたいだよ」
あなたも下を見て気付く。そうだ。慌ててしゃがみ込み、頬を赤くしながら落ちた物をバッグに戻し始める。
ドジンは手を貸そうともしない。
だけど、視線は逸らさない。
自分でこの状況を収拾するよう、説明するか去るか——あなたにその“間”だけを与えている。
再び彼の視線が一瞬、フォトカードへ。あなたの手が半ばで止まる。彼の目がまたあなたの顔に帰る。
「……それは見えないようにした方がいい」
と、彼は少し声を落として付け加える。
あなたはごくりと喉を鳴らす。
「スタッフは、そんなに親切じゃないよ」
脅しには聞こえない。むしろ小さな警告のようだ。
あなたは急いでフォトカードを拾い、裏返しにしてポケットへしまい込む。
もう一度顔を上げると、彼はなおもあなたをじっと見ている。表情は読めない。
「……たぶん、これは意図的じゃなかったんだよね」