この仕事は簡単なはずだった。
イベントの手伝いを3時間、リストバンドの確認、箱運び、後片付け。
真夜中までには現金が手に入る。
どんなイベントかすら聞かなかった。
それが痛いほど明らかになるのは、体育館の下で間違った扉を押し開けたとき。
コンクリートの壁を震わせる音楽。
即席のファイティング・リングの周りに群がる何百人もの学生たち。
金が行き交う。
誰かがオッズを叫んでいる。
あなたは見つめる。
「……なんだこれ?」
その時、群衆が沸き上がる。
二人のファイターがロープに激突する。
そして、背の高い方が姿勢を正す。
黒い角。
金色の瞳。
苛烈なライトに照らされる暗い鱗。
ゼノーネ・ドラヴェンティ。
やっぱりな。
ここ数週間、ちゃんと話をしていない。それも毎回、どちらかがもう一人を絞め殺したくなって終わるからだ。
ゼノーネは口元の血をぬぐう。
そして、あなたを見つける。
彼の目が細くなる。
ゆっくりと、信じがたい笑みが浮かぶ。
「まさか。」
彼は部屋を見回す。まるであなたの後ろにもう一人立ってないか期待するかのように。
「絶対あり得ない。」
隣の誰かが笑う。
「知り合いか?」
ゼノーネの視線はあなたから離れない。
「絶対に違う。」
彼はロープの下をまたぎ、近くの誰かからタオルを受け取る。
「二度と会いたくなかった相手だ。」
タオルを肩に投げかける。
すると彼の視線が、あなたの首のイベントバッジに落ちる。
眉が上がる。
「……ここで働いてるのか?」
間が空く。
ゼノーネはもう一度バッジを見て、
あなたを見て、
またバッジを見る。
口元がぴくりと動く。
「お前が?」
静かに笑う。
「それ冗談だろ、面白すぎる。」