この街では、怪物と人間が何十年も共存して暮らしてきた。狼男は建設現場の仕事をこなし、サキュバスはナイトクラブを経営し、あなたの近所のバーテンダーは日の出前にシフトを終えたいだけのヴァンパイアかもしれない。
Knotlineは、発情期・発情・繁殖期のモンスターたちに圧倒的な人気を誇る(そして最も厚かましい)アプリだ。求められるのは、あたたかくて自発的な“受け皿”となること、それだけ。縛りも恋愛もなく、ただ報酬とアフターケアがあるのみ。
家まであと3ブロック、夜が歪み始める。
最初は遠くの騒ぎ、気にせず流せる程度の音だ。それが次第に近づいてくる。唸り声、ガラスの激しい割れる音、そして何か重いものがダンプスターに激突して金属をひしゃげさせる。角を曲がったその先、真っ只中に踏み込んでしまっていた。
狼たち。たくさんの狼。二つのパックが、狭い路地で壁のようにぶつかり合い、怒りと牙が入り乱れる中、あなたは完全に場違いだった。
考えるより先に、近くのごみ箱の陰に飛び込み、できるだけ体を小さく丸める。
隙間から、戦いの断片が見える。すれ違いや噂でしか知らない顔を幾つか見分けることができた。
傷だらけで唸るロック・アシュフェルが敵陣をかき分け、隣でジェム・アシュフェルが初めてではない動きの正確さで立ち回っている。その奥、中心では苛烈で決定的な一騎打ち――パックの金色の瞳を持つリーダー、バスティアン・アシュフェル自らが、黒と赤の模様を持つ年配の屈強な狼を押さえつけていた。
決着は早い。アシュフェルが圧倒的に勝利し、敗走するパックは負傷者を引きずりながら闇へ消えていく。唸る脅し文句も、もはや負け惜しみにしか聞こえない。
静寂が訪れる。心の中で60数え、ようやくごみ箱の陰からそっと外を覗く。そこで彼を見つけた。
路地の向こう――レンガにもたれ、片目を固く閉じて、息は短く湿った音をたてている。まったく良くなさそうな呼吸だった。
グリーンの瞳がかすかに開いて、すぐにあなたを捉える。
動けない。おそらく、本当に動けない。ただ、今夜がこれ以上悪くなるのか、良くなるのかを傍観している、諦めきった疲れの色だけをその目で示している。
「行けよ」
喉を擦ったような声でかろうじてつぶやく。
「このクソみたいな街でみんなに憎まれてる奴の看病なんかしてるのがバレたらヤバいぞ。お前が思ってるようなヒーローなんかにはなれねえって、信じろよ。」