レナード・ヴァストホルムが立っている場所から見れば、中庭には三百人がいたが、問題は一つだった。
彼の友達。彼女の友達。友人グループ。
アルダーミア・アカデミーの黒い鉄の門が、灰色の秋空の下で開いた。
その先にあるのは学校というより、学校のふりをした帝国だった──ゴシック様式の塔、大理石の中庭、いくつもの国より古い噴水、私設警備、そして黒い高級車の列。いずれも、苗字が高層ビルに刻まれている後継者たちが運ばれてきた。
ヴァレクロフト。
ロックビー。
ヴァストホルム。
カルヴェイン。
ペラム。
ワンコールで市場を動かせる家系たち。
その中に、あなたは自分の名前を持たずに入った。
いくつかの会話がゆっくりになった。
大理石の階段の近くで、クレマンス・ペラムが頭から足先まであなたを眺めた。
「へえ」
彼女の口元が弧を描いた。
「アルダーミアは慈善事業も始めたのね、知らなかったわ。」
数人の生徒が笑った。
その他はただ見ているだけ。
ある少女は手で口元を隠して何かをささやく。
もうひとりの生徒は視線をそらし、不快そうに見えた。
中庭の向こう側にレナード・ヴァストホルムが立っていた。
背が高い。黒いコート。一方の手を気楽そうにポケットに入れている。
イサドラ・カルヴェインが彼の腕に手を絡め、隣に立っている。
レナードの視線が中庭を横切って動き──
そこで止まる。
あなたに。
即座に気づいた。
笑顔なし。
驚きなし。
温かみもない。
わずかに顎が引き締まっただけ。
「お前か」
アンセル・ヴァストホルムが兄の後ろから現れた。
彼もレナードの視線を追う。
そして固まった。
「やれやれ、ふざけんなよ」
彼の顔はすぐに笑顔に崩れた。
「疫病が生き残ったってことか!」
彼は両手を大げさに広げて歩み寄る。
「やっぱり現代医学はやりすぎだと思ってたんだ!」
レナードは動かない。
「お前、アルダーミアに通うのか?」
アンセルはふたりを交互に見る。
「お願いだからそうだって言ってくれよ。」
彼は胸に手を当てる。
「後継者たちがヨットの話を延々とするのを朝から聞かされてる。あと一会話で石膏ボードを食うぞ」
レナードは彼を見る。
「せめて校舎のためになるな」
アンセルは見つめ返す。
それからゆっくりとレナードを指差す。
「いまのジョークだったってわかってるか?」
レナード:
「いや」
アンセル:
「構成もタイミングも、心にダメージもちゃんとあったぞ」
その時、ヒールが大理石の上を鳴らした。
周囲の会話が変わる。
誰かがささやく:
「彼女が来る」
別の声が答える:
「例の令嬢?」
「一人娘だ」
セラフィーヌがクレマンスやマルゴー、数人の生徒を従えて近づいてきた。
彼女はまるで自分のもののように、あなたの家名を身にまとっている。
生徒たちが道を開ける。
人々が笑顔になる。
何人かが声をかける。
そしてセラフィーヌはあなたに気づいた。
ほんの一瞬、彼女の顔からすべての表情が消えた。
恐怖。
気付き。
そして打算。
再び愛想の笑顔が浮かぶ。
「まあ」
彼女は数歩手前で止まる。
「来たのね」
中庭が静かになる。
アンセルの笑顔が消える。
レナードの視線が二人の間を行き来する。
セラフィーヌは完璧に作られた悲しみの声を低くした。
「いろいろあったから……」
間を置く。
「……もう私を追いかけるのはやめると思ってた」
クレマンスがしかめ面をした。
「あなたを追ってきたの?」
セラフィーヌはすぐに首を横に振る。
「やめて。本当に、また騒ぎを起こしたくないわ」
まるであなたを守ろうとするかのように、セラフィーヌはあなたを見る。
「私たちの家の暮らしが、あなたにはずっと大変だったのよね」
近くにいた生徒がささやいた:
「待って──彼女って本当にメイドの娘じゃないの?」
ほかの誰かが笑う。 セラフィーヌは目を伏せる。
「彼女に劣等感を抱いてほしいなんて、これっぽっちも思ってなかった」
アンセルは完全に動きを止めた。
レナードは何も言わなかった。
周囲は未来のビリオネアやCEO、令嬢、王朝の後継者たち。
好奇の目。
面白がる目。
すでに裁いている目も。
アルダーミアに鐘が鳴り響く。
三百人の生徒。
無数の同盟。
無数の潜在的な敵。
入学初日から、盗まれた名前を名乗る女が本物の令嬢を偽者に見せてしまっていた。