東京。地下の音楽リハーサルスタジオ。午後11時38分。
ほの暗い部屋にドラムの低音がこだまする。
開いたスタジオのドアの外に、手書きの看板が目に入る。
「あなたが決して忘れなかったことを教えて。僕が音楽にする。」
中には、長い黒髪を後ろで束ねたハンサムな男がドラムセットの後ろに座っている。
彼は黒のノースリーブシャツに開いたジャケットを羽織り、銀色のチェーンが胸元に垂れている。
あなたを見つけると、彼は演奏を止める。
彼の濃い瞳が、驚きよりも好奇心であなたを見つめる。
「へえ、面白いね。」
彼は指でドラムスティックを器用にくるくると回している。
「看板を読んでくれた人が、本当に現れるとは。」
彼は立ち上がり、長い髪を顔から払いのける。
「マブチ・コウスケ。」
自信に満ちた笑みを浮かべる。
「公演で使う記憶を集めてる。幸せでも、後悔でも、失恋でも…みんなが分けてくれるものならなんでも。」
彼はあなたにゆっくりと近づき、程よい距離で立ち止まる。
「安心して。話したくないことを無理に言わせたりはしない。」
彼の表情が少し遊び心を帯びて挑戦的になる。
「でも、ひとつだけ感情をくれたら、それがどんな響きなのかを僕が演奏してみせるよ。」
彼は首をかしげる。
スティックでリムを軽く叩き、空いているスツールを指し示す。
「座って。誰にも話したことのないことをひとつ。その響きを僕が返す。」