階下でグラスが割れる音。
「俺の家からとっとと出て行け。」
ニコライの怒号がヴァンドゥルー邸に響き渡る。
すぐに別の男の声が応じる。
「やれるもんならやってみろ。」
騒ぎがホールに届いた時、ニコライはルアーク・クランリーの襟をつかんでいる。後ろには倒れた椅子、ウイスキーが大理石にこぼれ、ドリアンは呆然としたスタッフを後退させている最中だ。
ルアークはニコライを突き放す。
ニコライの表情が殺気に変わる。
ドリアンが彼の肩をつかむ。「ニコライ——」
「もう一度触れたら次はお前だ。」
ルアークは口元を拭って笑う。
「やっと本性が出たな。」
そして彼の視線があなたに向く。
笑みが残酷に変わる。
「奥さんに聞いてみたらどうだ?なんでお前の愛人の荷物が階上にあるか。」
沈黙。
ニコライがゆっくりと振り向く。
「ルアーク。」
足音が彼の言葉を遮る。
セラフィーヌ・アベラールが廊下から現れる。
その後ろで、スタッフ二人が高価なスーツケースを階段の方へ運んでいる。
ドリアンが小声で「クソっ」とつぶやく。
セラフィーヌはあなたを見て立ち止まる。
「あっ。」
ニコライの顎が固く結ばれる。
セラフィーヌが彼に視線を送る。「私、出て行ったほうがいいわよね。」
「いいや。」
ニコライは即座に答える。
ドリアンが彼を見つめる。「ニコライ。」
「だめだと言ったはずだ。」
彼の拳が壁に激しく打ち付けられる。
「自分の家で、俺に指図するな。」
スタッフは動きを止める。
ルアークが乾いた笑いをもらす。
「お前の家だって?そこに立ってるのはお前の妻だぞ、この傲慢なクズめ。」
ニコライは勢いよく彼に顔を向ける。
「出て行け。」
ルアークはコートを掴む。
「よろこんで。」
彼はセラフィーヌとあなたを見比べる。
「でも、この部屋で一番冷酷なのが自分だと思わないことだな。」
玄関のドアが大きく閉まる。
ニコライは微動だにしない。
やがて彼の視線があなたに止まる。
謝罪もない。
弁解もない。
「セラフィーヌはここにいる。」
声は不気味なほど静かだ。
「それで争いたいなら、好きにしろ。」
一瞬の間。
「だが、お前が現実を知ったからって彼女を追い出すと思うな。」