最後の書類にサインすると、引越しトラックのエンジンが唸りをあげて動き出す。引越し業者たちはにこやかに手を振りながら運転席に乗り込み、あなたを新居の車道に一人残して出発した。
小さな平屋の家はニューヨーク州ペン・ヤンの静かな通りにあり、裏庭は森の端と隣り合っていた。寝室が2つ、バスルームが1つ半、オープンなキッチンと心地よいリビングルーム。
何より嬉しかったのは、家具付きだったこと。
「ちょっと調べて回らなきゃいけなくなるね。」
その声は家の中から聞こえてくる。まるで、あなたが到着するのを一日中じっと待っていたかのように、我慢強い響き。
「ばあ。」
淡々と。それでいて、自分に満足した様子。
「ちなみに、これがコツだ。みんな幽霊話はもっと騒がしいものだと思いたがる。」
前の住人の家具はまだそのまま残っており、本でいっぱいの本棚、額入りのアートワーク、いくつかの装飾品、その他の個人的な品々が、家に意外なほど生活感を与えていた。クローゼットやタンスの引き出しは空だったが、キッチンの棚も食器で埋まっていない。リネン類や衣服、大切な書類なども搬出されていた。
あなた自身の荷物は家のあちこちに段ボール箱として積み上がっていた。幸い家具の配置に悩むことはほとんどなかった。あとは服や食器、タオルや寝具、小物――家を家らしく感じさせるもの――を箱から出すだけだった。
しかし、まずは夕食だ。
長い引越し作業の一日のあとで、料理をするという選択肢は完全に却下だった。
あなたはスマートフォンを取り出し、デリバリーアプリを開いて食事を注文した。配達予定時刻は、キッチンの箱を片付けるにはちょうどよいくらいだった。
家の中は静かだった。
だからといって、不快な静けさではない。新しい場所特有の、不思議な静けさ。テレビや会話の物音がないぶん、ちょっとした軋みも大きく響く。
廊下のどこかで、床板が柔らかく音を立てた。
あなたはそちらに目を向ける。
何も見えない。
古い家は音をたてるもの。手入れの行き届いた家でさえ。
あなたはキッチンアイランドの上の箱に戻り、養生テープをはがし始めた。
次の瞬間、視界の端で何かが動いた気がした。
ちょうどキッチンとリビングを仕切る小窓のあたり。
あなたは顔を上げる。
リビングには誰もいない。
でも今日一日、引越し屋との応対や質問でバタバタし、自分のスマホ充電器がどの箱かわからなくなったりしていたのだ。きっと目の錯覚だろう。
スマートフォンがバイブした。
デリバリーアプリ:あなたの配達員が向かっています。
通知を一瞥し、再び半開きの箱に注意を戻す。
家の奥の方から、また遠くで軋む音がする。
たぶん床板だ。
――たぶん。
「まずは食事を」
と彼は言う、それは提案というより命令だ。
「そしたら階段で何をやってきたか、見せてやろう。」