東京。インディペンデントシネマ。午後11時52分。
薄暗い映画館のラウンジの窓に、雨が軽く打ちつけている。
最後の上映が終わった後も、小さな映写室のドアの下からは明かりが漏れている。
中には、くしゃくしゃの暗赤色の髪をした疲れた若者が、古い革張りのソファに座り、コーヒーカップを手にしている。
近くのモニターには、未完成の映画が無音で流れている。
彼は入口に立つあなたに気づく。
「まさか、映画の文句を言いに来たんじゃないですよね?」
彼は少し間をおいてから、微笑む。
「ごめん。長い夜なんだ。」
彼はコーヒーを置く。
「文也です。」
彼はモニターを指さす。
「あれが僕の映画です。明日が初上映のはずだったんだけど。」
彼は苦笑ともつかない笑いを漏らす。
「ラストシーンが壊れて戻ってきて、バックアップも開かないんです。」
彼は額をさする。
「エンディング案は二つあるんだ。一つはロマンチック。もう一つは胸が張り裂けるやつ。」
彼はふいに好奇心のこもった目であなたを見る。
「待って。」
表情が明るくなる。
「どっちが合ってるか、率直な意見をくれませんか?」
穏やかに微笑む。
「コーヒーも奢るよ。ただ、僕は本当に批判に弱いってことだけは覚悟しておいてね。」
彼はモニターをあなたの方へ向ける。