ブーン・マーサーは配信を始めて3時間経っていた。
3万2千人が大会練習の合間に彼が公開ロビーを次々と蹴散らす様子を見ている。椅子を少し後ろに傾け、片手でマウスを軽く操りながら、チャットに好き勝手な悪態をついている。
「このロビー、マジでゴミ。」
さらにもう1キル。
「いや、本気で。なんでここでやってるんだ?」
チャットは流れが速すぎてまともに読めない。
「BRO THINKS HES HIM」
「お前6分前に死んでるぞ」
「ショットガンで💀」
「ブーン、大会優勝者w」
「今のショットガン死はノーカンだ。」
「物理的に死んでた」
「アイツは角待ちしてたんだぞ。あれはゲームプレイじゃない、不動産所有だから。」
次のロビーが読み込まれる。
ブーンはロビーの名前一覧をほとんど見ない。
だが、チャットは違った。
「あーやばい」
「ブーン」
「ブーン見て」
「彼女来た」
「GGガール」
「奥さん帰ってきた」
「🚨ブーンのライバル検知🚨」
ブーンの目が細くなる。
「お前ら何の話だよ――」
そして彼はそれを見つけた。
あなたのユーザーネーム。
その瞬間、彼の顔つきが変わる。
「ふざけんなよ。」
「見つけたwwww」
「今前のめりになったw」
「集中しろブーン」
「150人の脅威が来たぞ」
「GG来るぞ」
「誰もGGとは言わせない。」
ブーンは身を乗り出し、前腕をデスクに乗せる。
「真っ先に彼女を倒す。」
「声が震えてるぞ」
「緊張なんてしてねーよ。」
対するPylonで、あなたの配信にも約150人が同じロビーを見ていた。
「来たぞ」
「HAHAHAHAHAHA」
「ブーン見つけた」
「やれ!」
「頼むからGG言って!」
「みんなのためにやって!」
試合が始まる。
次の12分間、ブーンはまるで大会がかかっているかのような本気のプレイを見せた。
1チームを全滅。
さらにもう1チーム。
チャットもやっと落ち着きかける――
かけた、その時。
向かいの屋上に一瞬動きが走る。
ブーンは素早くエイムを合わせる。
「いた。」
「あれ彼女?」
「うわやべえ」
「ボス戦きた」
屋上で銃声が響く。
ブーンはアーマーを割る。
あなたは隠れた。
「そうだ、逃げろ。」
3秒後、彼の足元にグレネードが転がる。
「なんだ――」
爆発。
ブーンはポジションを変え、回復し、階段へ突入、再びあなたを発見。
「捕まえ――」
撃つ!
あなたはすべり込みで回避。
振り返って――
完全に彼を“ぶっ壊した”。
ブーンの画面が暗転。
沈黙。
3万2千人が、彼の魂が抜けた瞬間を見届けた。
「HAHAHAHAHAHAHAHA」
「ありえねえw」
「GGGGGGGGGG」
「ぶっ倒されてんじゃねえか」
「さすがうちの配信者」
「150人>プロのキャリア」
「誰か彼を見てやれ」
「ブーン何か言え」
ブーンはゆっくりと背もたれに身を預ける。
顎に力が入る。
「このゲーム、マジでクソだ。」
そこへ近接ボイスチャットがヘッドセット越しに割り込む。
「GGs!」
ブーンがフリーズ。
チャットは大爆発。
「きたー!」
「GG言ったー」
「GGGGGGGGGG」
「奥さん挨拶してる」
「超キレてるw」
あなたの配信でも、ちっちゃなチャットが荒れる。
「聞かれたぞ」
「逃げろ、見つかる前に」
「ブーン、これ読んでたら愛してるぞ」
「いや、愛してねえ」
「GG💀」
ブーンはしばらく死亡画面をじっと見ていた。
やがて視線がサブモニターへ――
チャットのほうへ移る。
「なあ。」
マッチから抜けた。
「彼女の配信探してやる。」
「まさか」
「やれ」
「やめろブーン」
「ブーンいいぞ」
「いやそれはまずいって」
30秒もかからなかった。
あった。
あなたのチャンネル。
視聴者163人。
ブーンはその数字を見つめる。
「これが彼女?」
「そう」
「優しくして」
「うちの子だ」
「おいやめろなんで“うちの”だ」
「みんなで見てたw」
ブーンがゆっくりチャットのほうを振り向く。
「は?」
「やばい」
「なんでもない」
「説明できる」
彼の目が細くなる。
「お前ら、どれぐらい前から彼女見てたんだ。"