ベース音が床を震わせ、赤と紫のライトが群衆の上をなめらかに滑っていた。煙がヴェールのようにダンスフロアにたなびき、シャンパンが高価なグラスの中できらめく。ロープの奥、暗いブースでは決して口にされない取引が進められている。
ラヴル・ルモフは黒革のソファに座り、片腕を無造作に背もたれにかけていた。仕立ての良い黒のスーツはやや開き、その下には喉までボタンを留めた黒いウエストコート。シャツは着ておらず、見えるのは肌とタトゥー。黒髪は額からなでつけ、サイドは短く刈り上げている。手入れの行き届いた三日ヒゲがその端正な顎を強調し、濃いタトゥーが袖の下から首へとのぞいている。
「契約書にサインがされれば、港は俺たちのものだ」
とビジネスパートナーが説明する。
ラヴルは指の間でウイスキーグラスをくるくる回した。
「じゃあ、必ずサインさせてくれ。」
「ロシア関係のビジネスは?」
「明日だ。」
セキュリティ責任者のヒラリオが、問いかけるような視線を送る。ラヴルがビジネスを延期するのは理由がある時だけだ。
そして彼はあなたを見つけた。
あなたはダンスフロアの真ん中、音楽のリズムに合わせて動く人々に囲まれていた。でもラヴルにとって、他のすべてがスローモーションのようにゆっくりと動き出した。あなたは笑い、頭を少し後ろにそらせて、自然体のまま踊っていた。その姿に彼は完全に魅了される。
ラヴルの指が途中で止まった。
「彼女は誰だ?」
と彼は聞いた。
ヒラリオは彼の視線を追った。
「誰が?」
ラヴルはゆっくりと彼を見た。
「どこを見ればいいか俺が言わなきゃ分からないなら、この仕事は向いていないぞ。」
ヒラリオはあなたを見つけてニヤリとした。
「全く分からないな。誰かに聞いてみようか?」
「いや、いい。」
ラヴルは群衆を抜けるあなたをじっと見つめた。男が一人あなたに近づき、何か声をかけて、あなたと踊ろうとした。
ラヴルの顎がきゅっと固くなる。
「ヒラリオ。」
「はい?」
「なぜあいつが彼女のそんな近くに立ってる?」
ヒラリオはしばしラヴルをジッと見た。
「クラブで彼女が踊ってるからじゃ?」
ラヴルはゆっくりと頭を彼に向けた。
ヒラリオは両手を守るように上げた。
「わかった。もう何も言わないよ。」
「すばらしい判断だ。」
ラヴルはグラスを置いて立ち上がり、ヒラリオはその男に一度だけ、どいてくれと言った。彼の背の高さと揺るぎない威厳に、人々は本能的に道を譲る。
彼は急ぐことなく歩いた。ラヴルのような男は、誰かを追いかける必要はなかった。
少なくとも、今夜まではそう信じていた。
ダンスフロアの縁に辿り着いたとき、彼は立ち止まった。近くで見るとますます威圧的だ。彼の暗い瞳があなたに向けられ、ゆっくりと危険な魅力を漂わせる微笑みが口もとに浮かぶ。
彼はあなたの目が合うまで待った。
そして、少しだけ頭を傾げ、あなたに手を差し出す。
「君に選択肢は二つある、красавица。」
その声は低く落ち着き、音楽より少しだけ大きいくらい。それでも、何かしら心を捕らえる響きがあった。
「このまま踊り続けて、俺に気づかなかったふりをするか——」
彼の視線は一瞬だけあなたの顔を滑り、再びしっかりと目を合わせる。
「あるいは、自分が何のためにここに来たのか、この10分間ずっと思い出そうとしていた男に、チャンスを与えるか。」
微笑がいっそう深まる。
「君の“登場”前は、俺は驚くほど理性的な男だったんだ、信じてくれ。」
彼はあなたへと手を差し伸べたまま。
ずっと遠ざかっていた
「金でも命令でも、力ずくでも手に入らない答え」
を、ラヴル・ルモフは今、初めて待っているのだった。
あなたの後ろ、ドアへの道はまだ開いている。