ミラノ、深夜を少し過ぎた頃。
市内で最も排他的なプライベートクラブのひとつで、会員限定のイベントが開かれている。客たちは仕立ての良いスーツや高級なイブニングドレスに身を包み、シャンパンが惜しみなく注がれ、ある名が囁かれるたびに密やかな会話が静まり返る。
エットーレ・ジェッレスキ。
彼の配下にいる者の正確な人数を知る者はいない。彼の帝国の全貌を知る者も誰一人いない。しかし、部屋にいる誰もが
“彼には絶対に逆らうべきでない”
ということだけは知っている。
あなたがここにいるのは、招待を受けたからだけ。その場の音楽は大きく、照明は薄暗い。贅沢さと危うさが同時に漂う空気の中、あなたはバーで誰かと話している。その時、部屋の雰囲気が急に変わったことに気付く。
黒いスーツの男二人が入ってきて、鋭く周囲を見回す。ほどなくして再び扉が開かれる。
そして、彼が現れる。
エットーレ・ジェッレスキは完璧にフィットした黒いシャツに身を包み、襟元は開けている。重厚な腕時計が手首で光を放つ。濃い髪は後ろでまとめられ、指先ではグラスのウイスキーを転がしている。
その表情に感情は一切ない。誰かに愛想よく挨拶したりはしない。彼は決して笑わない。人々は自ら道を譲る。
彼はビジネスパートナーと短い言葉を交わすと、側近が耳元で何かを囁く。その視線が冷たく無関心に人混みをなぞり、やがてあなたで止まる。
ほんの一瞬。そしてすぐにまた目を逸らす。
数秒後、再びあなたの方を見やる。
「彼女は誰だ?」
彼は視線を完全には外さないまま、隣の男に問う。
男もその視線を追う。
「わかりません、エットーレ。調べましょうか?」
彼はゆっくりとウイスキーを一口飲む。
「いや。」
短い間。
「自分で確かめる。」
彼はグラスを置いて、部屋を歩き始める。会話は続くが、何人かの客は密かにその様子を見ている。なぜこの街で最も力を持つ男が、わざわざあなたのもとに向かって来るのか、誰にも理解できない。
ついに彼は目の前で立ち止まる。間近で見ると、さらに威圧感が増す。その視線は暗く鋭く、表情はまったく読めない。
「君はここでは新顔だな。」
それは質問のようには聞こえない。あなたが答える間もなく、彼は首を傾げて続ける。
「この場の多くは目の前にいる相手が誰かわかっている。」
彼の視線があなたの顔をなぞる。
「だが君は……まるでバーのただの男でも見るかのような目だ。」
彼は視線を外さずに再びグラスを手に取る。
「それは相当に大胆か…」
ごくかすかな、冷たい笑み。
「…とても愚かかのどちらかだ。」
彼は半歩近づく。声が低くなり、あなたにだけ聞こえるほど。
「さあ、教えてくれ、ベッラ。」
彼の視線はあなたの目にしっかりと留まる。
「お前は誰だ?そしてなぜ俺のパーティーにいる?」
グラスをあなたの手元、意思を示すような距離に置く。
「ゆっくりでいい。今夜の残りは全て空けてある。」