灰色の月が昇るまで、あと数時間。永遠の炎の洞窟の奥では、異様な緊張感が漂っていた。
「もう、頭がおかしくなりそうだ!」
ジョリは大きな毛皮の上に仰向けになっていた。黒茶の狼耳が苛立ち気味にピクピクと動き、ふさふさの尻尾は落ち着きなく地面を叩いている。
「これ以上オメガなしで夜を過ごしたら、くそったれなクリスタルと抱き合い始めるぞ!」
「もう話しかけてるじゃないか」
アイヴェンが乾いた口調で、ハーブをすり潰しながら言った。
「だって、クリスタルだけはちゃんと話を聞いてくれるだろ!」
洞窟の奥の大きな石の椅子に座っていたケットルが、ゆっくりとターコイズ色の瞳を開いた。
「ダメだ」
「でも――」
「もう何度も試しただろう」
胸に低いうなり声が響いた。
「誰も俺たちのルナじゃない」
「可愛い子もいたけどな!」
ジョリは腕を組んでムッとしながら身を起こした。
「でも俺の狼が全員に鼻を背けちゃうんだ!」
「美しさだけじゃ、絆は生まれない」
アイヴェンが言う。
「どうも、フロストファー教授。それは大変ありがたいお言葉だよ」
ケットルは何も言わなかった。それがまた一番堪えた。そして三人は、満月前にいつもなるように、静かになった。
その時、ケットルが頭を上げた。耳がピンと立つ。
奇妙な匂い――血、恐怖、そしてその奥に甘いなにか、温かななにか、信じがたいほど珍しい気配。
「誰かが外にいる」
ケットルは何も言わず洞窟を出た。
風が尾根の岩の間を笛のように吹き抜ける。暗い木々の間、小さな雪のように白い影が動いた。あなたの足は痛み、美しい白い毛皮はあちこち血で染まり、呼吸するたび痛みが走る。ここ数日、ほとんど眠れていなかった。
自分の民に裏切られた。信じていた相手に、血統を逸脱した危険な存在だと呼ばれた。白狼――本来生まれてくるはずのない存在、と。ついに村を追放された。
金色の瞳は疲労で霞む。もう一歩だけ、と足を出そうとした瞬間、力尽きて岩の上に倒れ込んだ。
そして目の前で人影がピタリと止まっていることに気づかなかった。
「なんてことだ……」
ケットルは濡れた地面に膝をつき、自分のコートをあなたにかけた。
「――おい。小さきものよ。聞こえるか?」
あなたはほとんど反応できなかった。ケットルは傷の様子に気付き、険しい表情になった。前腕の炎も、九年ぶりに完全に静まった。
「……ありえない」
彼はそう言うと、あなたをそっと持ち上げた。
洞窟に戻ると、三人全員が一斉に振り向いた。
「白狼だって?!」
ジョリが飛び起きた。
「そんなの存在しないはずじゃ?」
「どうやら存在するようだな」
アイヴェンが毛皮の横で、すでに金色の光を手に集めながら言った。
「寝かせてくれ。癒すことができる」
ケットルはあなたを柔らかな毛皮の上に下ろし、一歩も引かなかった。
ジョリは匂いを嗅ぎ、耳が完全に立った。
「あの、兄弟たち。気のせいじゃなければ、彼女、すごくいい匂いがしないか?」
アイヴェンの手が、あなたの肋骨の上で止まる。
「いや、気のせいじゃない」
長い間が空く。そしてケットルが口を開いた。命令ではない低い声だった。
「彼女が、俺たちのルナかもしれない」
ジョリは口を開き、そして牙を見せながら満面の笑みを浮かべた。
「ちょっと待て。俺たちの……?」
ケットルは警告するような視線を送り、毛皮のそばに膝をついた。熱をすぐそばであなたに感じる距離だった。
「君が誰であっても」
ごく静かにそう言った。
「ここではもう、誰も君を傷つけない」
あなたの金色の目が開く。
「よし」
ケットルは兄弟たちを見て言った。
「アイヴェンが癒し終わるまでは誰も彼女に触れるな。その後みんなでちゃんと座って、どうするか一緒に決める。彼女は“見つけ物”じゃないからな」
そしてあなたから離れようとしなかった。
「それと、誰がこんなことをしたのか突き止めろ。月が沈む前に、必ず名前を知りたい」