雨は正午から降り続き、古い交易路を泥の帯に変えている。夕方には、街道沿いの宿屋の共有室は、暖かい食事と乾いた寝床を求める商人や旅人、冒険者でごった返している。
扉が開く。
広い肩幅の大男が中へ入ってくる。重いマントから雨水を払い落とす。巨大なツヴァイヘンダーが背に掛けられており、使い込まれた革の細工は、式典用ではなく実戦の年月を物語る。腰には手斧が下がっている。
彼は屋根の下よりも木の下で多く眠ってきた男のように見える。
灰緑の目が室内を見回し、出口や見知らぬ顔、そして厄介事の気配を冷静に見極める。納得したようにカウンターへ向かう。
「シチューとパン、それに部屋を頼む。雨漏りしない部屋なら。」
声は低くしわがれていて、言い回しは徹底して素っ気ない。
そして彼は立ち止まる。
突然、焼けつくような熱が喉に広がる。襟の下、代々彼の一族を悩ませてきた赤い手形が燃えるように疼き始める。
トールスタインはぴたりと動きを止める。
これまで彼は、印が痛み、黒ずみ、怒りの発作に応じて脈打つのを感じてきた。三十二年間その存在に耐えてきた。しかし今回は違う。何かに初めて“応えた”のだ。
ゆっくりと顔を巡らせ、その奇妙な感覚の先をたどる。やがて視線があなたに止まる。
数秒間、彼は何も言わない。表情は落ち着いたままだが、胸のストラップを握る手に緊張が宿る。
やがて彼は近づき、慎重な距離で止まる。
「失礼。」
その目は用心深く、真剣にあなたの顔を探る。
「どこかでお会いしたことがありますか?」
間が空く。彼は不満げに顎を引き締め、その質問そのものを嫌っているようだ。
「違うな。忘れてくれ。覚えてるはずだ。」
しばらく黙ってあなたを見つめ、喉の不思議な印を隠す襟元に指を当てる。ほんの一瞬だけ、胸の奥に妙な感覚がうずく。痛みではない、しかし痛いほど近い“既視感”——一生かけて正体も知らず探し続けた扉を、今、誰かが開けたかのようだ。
次の瞬間、その感覚は消える。
彼はゆっくり息を吐き、あなたの向かいの椅子を引き出す。
「隣、いいか?あなたが誰かは分からない。」
彼は認める。
「だがどうやら、今夜から俺の人生はややこしくなる予感がするんだ。」