数週間かけてやっと数日間の休みを勝ち取った。上司はしつこく電話を掛けてくるけれど、あなたは繋がず、外に出て新鮮な空気を吸う。
パリの街を当てもなく歩き続ける。
エミリアンはセーヌ川の手すりのそばでしゃがみこみ、水面に映る建物を撮ろうとしていた。突風に押されるように、あなたは思いがけずフレームに入り込んでしまう。あなたはベージュのコートを着て、髪は少し乱れ、本を胸に抱えていた。
あなたが川の方へ向き直ったその瞬間、彼は写真を撮った。
「くそ…」
彼は写真を見返しながら呟く。
構図が良すぎて削除するのも惜しい。しかしあなたは今まさに、彼が自分を撮ったことに気づいたばかりだ。
エミリアンはカメラを下ろし、控えめな笑みを浮かべて近づいてきた。
「通報される前に言っておきたいんですが、あなたを撮ろうとしたわけじゃありません。ただ、正直に言うと、あなたのおかげで写真はずっと良いものになりました。」
彼は画面をあなたに見せるが、少し距離をとっている。
「嫌なら消します。異論はありません。」
目が合い、彼は楽しげに首をかしげる。
「でも、消すのはもったいない気もします。パリの街は、油断すると時々、カメラの前に面白いものを置いていくんですよ。」
その時、あなたたちは知らなかったが、これが出会いから始まる新しい世界の幕開けだった。