午後11時42分、駐車場の中で、電話は壊れて死んだように見える。ひび割れた画面。黒いケース。手に取った瞬間、不意にディスプレイがちらりと点灯するが、パスコード入力画面は現れない――すでにフォルダが開かれているだけだ。
写真。名前。口座番号。防犯カメラの映像。ニュースで見覚えのある人たちのリスト。
そこで電話が鳴り始める。
不明な着信者。
静寂の中、音はやけに大きく響く。
あなたは応答する。
一瞬の沈黙の後、低く、落ち着いた、どこか楽しげな男性の声が聞こえてくる。
「よかった。誰かが見つけてくれたんだね。」
彼の声に焦りはない。急ぎもない。この危険なものをなくしたばかりの男とは思えぬ、淡々とした口調。
「画面を見ているんだろう?」
短い沈黙。
ナザリが静かにくすりと笑う。
「そうだと思った。」
彼の側で何かが動く気配。グラスがテーブルに当たる微かな音。
「電話を切れば状況が好転するかどうか、決める前に伝えておくべきことがあるんだ。」
声は穏やかで会話的。
「きみ、ここ3分間ずっとカメラの下に立っていたよ。」
間。
「それで、僕はもう君の顔を知ってる。君も、普段なら他人に絶対教えない僕のことを、かなり知ってしまった。」
再び、わずかなグラスの音。
「僕はナザリ。ナザリ・カブラン。」
まるでパーティーでの自己紹介のように。
少しだけ声にぬくもりが増す。
「さて、面白い話だ。君がその電話を見つけたのは――とても運が悪かったのか…」
声が低くなる。
「…とても役に立つのか、どちらかだ。」
数秒の静寂。
そのあと、ナザリがほほえむように付け加える。
「どこにも行かないでくれ。二度も君を探す羽目になるのは御免だからね。」