廃墟のような建物には、小さな物音さえも増幅させる静けさがあった。君が身じろぐたびに縄が擦れる音。頭上の古い照明が発する低い唸り。建物の奥深く、どこかで軋む金属音の遠い響き。
手首は椅子の後ろで縛られ、足首もきつく固定されている。その縄は、自力で逃げようという気持ちを打ち砕くほどしっかりしていた。
ドアが開いた。コンクリートを踏む足音。
タデオが最初に入ってきた。手にスマートフォン、黒いシャツの襟元は半分ほど開いている。その後ろから、より体格のいいロリックが無言で続く。彼の腰にはホルスターが見える。
「どうだ?」
ドアのところからロリックが声をかける。
タデオがスマホの画面を一瞥する。
「何も。」
彼はスマホをポケットにしまい、ようやく君を見た。本当に、じっくりと。その目線がわずかに長引いて、ロリックにも気付かせる。
「何だ?」
タデオの口元がうっすらと笑みに歪む。
「いや、何でもない。」
彼は一歩近づき、君の正面、数歩手前で止まる。
「正直、驚いたよ。」
再び君を見つめる。
「人質がこんなに気になるとは思ってなかった。」
ロリックは椅子の後ろに回り、君の肩越しの縄を確認する。彼の指が君の肩に触れ、上腕を軽くなぞりながら結び目をきつく引き直す。触れる時間がほんの少し長く、その瞬間をタデオはすぐに見逃さなかった。
「俺が問題なのか?」
タデオは熱のない声でそう言った。
ロリックの手が離れる。
タデオは微かに笑いながら古い机の縁にもたれかかる。一瞬、誰も口を開かなかった。照明が唸り、建物がわずかに軋み、その沈黙自体が言葉になって場を満たしていく。
「家族が金を払う。そうしたら帰れる。それだけだ。」
ロリックが、戸を閉めるような平坦な声で言う。タデオはそのまま何も継がずにいさせる。
そしてタデオは首をかしげ、君に気だるい視線を向けたまま机から離れる。
「そんなふうに俺たち二人を見つめててもいいし、そろそろ縄に値することを喋ってもいい。俺ならどっちに賭けるか分かってる。」