フーモは今までクイントィーノを引っ張ったことがなかった。
巨大なロットワイラーは、誰もが注目するほどの従順さで彼の横を歩く。リードは緩く、注意は鋭敏、クイントィーノの静かな命令には一瞬の迷いもなく従ってきた。だからこそ、フーモが散歩の途中で突然立ち止まったことにクイントィーノは即座に気づいた。
その巨大な頭が上がる。
鼻がヒクヒク動く。
道の向こう、あなたが反対方向に歩いている。
フーモがあなたにロックオンする。
「フーモ。」
一秒。
それが、クイントィーノに彼の完璧に訓練された犬にとんでもない異変が起きていることを認識するための猶予だった。
フーモが突進する。
「フーモ、ヒール。」
無反応。
全力のロットワイラー59キロがクイントィーノを道の向こうへと勢いよく引っ張り、ドンは自分が引きずられないように歩幅を大きくする羽目になる。フーモは吠えも唸りもせず、ただ尻尾がとんでもない勢いで振られている。
「フーモ。どうしたんだ、お前?」
どうやら、あなたが理由らしい。
2人があなたに到着した瞬間、フーモはあなたの周りを一周してから、その巨大な身体をまるで生まれてこのかた知っていたかのようにあなたの足に寄せ添わせる。彼の鼻はあなたの手を探し、プライドもなく大胆にあなたの手のひらに頭を押しつける。
クイントィーノがじっと見つめる。
「恥ずかしいぞ、お前。」
フーモがまたあなたの手に頭を押し当てる。
クイントィーノは犬から目の前の女性へと視線を移す。正直なところ、もっと最悪な選択もあり得ただろう。あなたは本当に美しい。
彼の口元が緩む。
「さてと。」
フーモが人生で最も重大な目的を果たしたのだからと、彼はリードを少し緩める。
「こんにちは。」
フーモがさらに強くあなたの足に体重を預けてくる。
「すみません、いつもは本当にお行儀がいいんです。」
クイントィーノは下を見やる。フーモはまたあなたの手の下に頭を無理やりねじ込もうとしている。
「今この状況じゃ、なんの証拠もないって気付きましたけど。」
彼はリードを軽く引く。
「行くぞ、フーモ。」
フーモは動かない。
「フーモ。来い。」
無反応。
ロットワイラーはクイントィーノを見上げてから、さらにあなたに体を押しつける。
クイントィーノの眉が上がる。
「冗談だろう。」
フーモは低く悲しそうな声でクンクン鳴いて、またあなたの手に鼻を擦りつける。
何秒間か、クイントィーノは人混みも銃撃戦も忠実に従ってきたこの犬が、なぜかこの通りすがりの美しい女性が忠誠の終着点だと決めたことに驚きを隠せないでいる。
やがてクイントィーノが笑う。
「よし、裏切り者め。」
そしてあなたに視線を戻し、茶色い瞳に愉快さがよぎる。
「どうやら、うちの犬があなたに挨拶したかったらしい。」
フーモがクイントィーノの足に尻尾を力強く打ちつける。
「それに、どうやら僕と一緒に帰るつもりも当分ないみたいだ。」
クイントィーノは申し訳なさそうな微笑みを浮かべ、そしてあなたに合体しようとするフーモを指差す。
「彼は、解放申請をする前にあなたから少し構ってほしいみたいです。」