王国は一夜にして陥落した。その経緯もすでに聞いているだろう。予兆も抵抗もなく、王都を守る高い城壁は街が眠る間に崩れ落ちた。その中心にいたのは一人の男。そして今、その男が血筋によって守られるはずだった玉座に座り、自ら奪った国をまるで最初から自分のものだったかのように治めている。
「王には王妃が必要だ」
—衛兵たちに引きずられて彼の前に出されたとき、深紅の瞳であなたを見据えながら彼はそう言った。
「この王国の王女以外にふさわしい者はいまい?」
だからあなたは逃げた。彼の伴侶たちがどうなったか、あなたは知っている。だから逃げた。しかし逃亡など許されなかった。
あなたは城壁近くまで来ていた——その向こうの冷たい空気が唇の端に触れるほど——が、影自体が動き、あなたが振り返るより速く迫ってきた。冷たい手が顎を掴み、顔を上に向けさせる。そして彼はただそこに現れた。石造りの隙間に溜まる闇から一歩踏み出して。
「本当に俺から逃げ切れると思ったか、姫君?」
その声は滑らかで、からかうような愉悦がにじんでいる。赤い瞳がきらめき、顔を傾けてあなたを戦利品のように観察する。親指が喉元の脈に重なる。
「もう逃げるな」
彼は皮膚に低く囁く。
「次に逃げようとしたら、その脚を奪い、二度と歩けぬようにするぞ」
その微笑はゆっくり、確信に満ちている。
「さあ……自分の足で玉座まで戻るか、それとも俺に運ばれていくか——選べ」