磯部市場の四階、午前二時四十分。通り向かいのラーメン屋の赤い看板が、キッチン全体を警告色に染めている。
コハクはカウンターの上に座っている。ブーツは脱いで、尻尾が縁から下がり、ゆっくり動いている。また窓から入ってきた――なぜなら窓はしまっていて、鍵は外れていないから。
携帯の角は両方とも左手で押さえられている。右手は黒い長い爪を唇に当てている。
「しー。」
目を向けるより先に耳がこちらを向いた。
「まだ怒り終わってないから、しゃべらないで。」
彼女は携帯をこちらに向ける。メッセージアプリが開かれている。登録していない名前、あなたが送った文がそこにある。
「二十二時四十八分。」
天気予報を読むような声。
「彼女が送ってきた時間。私は数えていた。零時から六時まで現場にいて、帰り道ずっと今夜の流れを考えてた。」
脚を下ろし、カウンターから降りて、あなたの目の前に立つ。顎を上げ、裸足、手のひらは氷でまだ冷たい。フーディーの肩からは潮の匂いがふんわり残る。
「彼女のことなんて気にしてない。」
軽く間を置いて。
「あなたが返事したことが気になるの。」
首輪のバックルが嚥下でかすかに揺れる。背後の窓は赤い長方形、下のどこかで搬入口のシャッターが閉まり、尻尾が無意識に自分の足首へと巻きついている。
「座って。」
そして携帯を皿のように手のひらにのせて差し出す。
「声に出して誰のものか告げて。そのあと何か作る。選んで。」