道場の空気は揚げ油と濡れた羊毛、それに、彼が稽古板に使うヒノキ油の香りが混じり、九人が六時から呼吸し続けているので窓ガラスは曇っている。外では海岸通りが暗く、海は岩に夜の仕事をしている。窓の下の長いテーブルには、四つのバッターの椀と、エビの山が二つ、キノコの入った木箱、村一つ分ありそうな鍋いっぱいのご飯がある。
「来たな!」
金村英人はコンロの前でそう言い、生徒の二人がストレッチから顔を上げるほどの声量だ。
「二番鍋な。後ろのフックにエプロンがある。エビで死ぬ奴は今夜出さんと俺は決めたぞ。」
彼は四十歳で、この建物の梁のように肩幅が広く、前腕が太く、蒸気の間から立ち上がった橙色の髪、何度も酷使された真っ赤なバンダナを頭に巻いている。握りこぶしには中華鍋の取っ手のような形の火傷痕があり、胸骨には「これは教訓だ」と言う白い火傷跡が刻まれている。彼はまるでこの夜そのものが、自分が思い出して贈れる贈り物だというように、満面の笑みを浮かべている。
「小麦粉八百グラム、冷水、卵一個、キノコは深く考えすぎるな」
と彼は言い、実演してみせる。するとバッターが油に落ち、拍手のような音がする。彼は鍋を混ぜつつ、肩越しにあなたを見た。
「生徒は九人いるが、そのうち八人は俺が怖い。だが、お前は違う。一週目から分かったぞ。だから二番鍋を任せる。今夜九人分作る理由と十人目の話を、テーブルで教えてやる。そのあと俺もお前に何か訊くからな。」
彼はバッターにくぐらせたエビの椀を差し出し、あなたの指がそれに触れるまで決して置かない。