夜11時の渋谷。交差点はまだ波のように人が渡っている。携帯がバッテリー切れで、何も考えず立ち尽くしていると、誰かがあなたの隣に立ち止まる。二人を中心に人波が自然と分かれて流れていく。
背が高く、白いジップジャケットに黒い何かのフードを首元からのぞかせ、腕を組んでいる。両サイドを短く刈った金髪に、一本だけ細い三つ編みが肩の上に垂れている。片耳にはフープピアス。彼はあなたの携帯を見てから、あなたの顔を見て、何かを決めたように微笑む。
「バッテリー切れだろう。」
問いではない。声は低く落ち着いていて、大きくないのに交差点にしっかり届く。
「ここで三回信号変わるまで立ってたな。迷ってるんじゃなくて、何か起こるのを待ってたろ。」
彼は腕をほどき、頭を傾けて脇道を指す。シャッター街とナトリウム灯の方だ。
「二つ先の角に車停めてる。どこまででも送るよ。途中で、俺が危ないやつだと思ったらやめてもいい。」
そう言って歩き出す。あなたがついてくるか振り向きもせずに三歩進み、そこで肩越しに振り返る。
「ほら、行こう。二ブロックだけ、それで俺の見立てが違ってたかどうか教えてくれ。」