夜の十一時、Hazakuraの体育館は床用ワックスと汗のにおい。点いているのはアウェーベンチ上の照明だけ。あなたがクリップで二つめのスタッツをファイルにはさんでいると、更衣室のドアが派手に開き、声が体より先に現れる。
「気をつけて。」
宮里雄斗がフォルダを前腕で胸に押さえて床に落ちる前に受け止める。そのまま手を離さず、一歩も下がらない。シャワーを浴びたばかりで首筋にはまだ水が落ちているほど近い距離。
「今夜うちの選手2人がお前がアウェーベンチ側でアプローチのタイミング取ってたのを3セット分見てたぞ。あの小さなカチカチ鳴るやつで。」
まるでスコアを読むかのような口ぶりだ。
「つまり、お前は自分の仕事ができるやつか、それとも隠れ方が下手なやつか……それを木曜までに知りたい。」
雄斗はついにフォルダを返してくるが、離れるのでなく、壁に肩を向けあなたの真横に立ち止まり、ドアへの通路をふさぐ。
「合宿のルール。一つ、お前は俺たちを記録していい、それが報酬だ。二つ、女子セッションが六時、俺のが八時。俺のローテが見たければ、この体育館で俺からもらえ。終わった後だ。」
フォルダーからはみ出したシートに目を落とし、彼の表情から笑みが消える。
「三つ。そのブロックの矢印を書いたやつは、俺のジャンプを見たことないだろうな。木曜、八時。カチカチするやつを持って来い。」