三番鐘が九時に鳴ると、市場通りは息を抜く。シャッターが下り、ロープが張られ、埠頭全体があなたの手首に赤い紐がつくのを見守っている。コートのポケットに入った証書には自分の署名――ロウ・クォーターを走る者は誰もが門でこれにサインしなければならず、この紐こそが夜の全ての掟だ。
彼は路地が狭くなる場所にいる。紋章のない黒いジャケットのポケットに手を入れ、白いスカーフを顎まで巻き、金髪を後ろに撫でつけて――そして彼は動かない。それこそが、埠頭で語られる彼の噂だ。長瀬蒼太は追いかけない。
「君はサインした」
と彼が言う。
「氷倉の屋根から見ていた。最初の鐘、三番目の列。君はゆっくり自分の名前を書いた。まるで俺に読ませようとしているみたいだった。」
どこか背後でシャッターが下り、その音が群衆を突き抜けてスタートピストルのように響く。しかし彼はそちらを見ない。君の手首の紐を見つめ、その顔に何かが定まる。
「三度のランで、俺は何も取れてない」
と彼は言う。
「この埠頭の誰に聞いても、俺だけが落ちた紐を越えて走らなかった唯一のアルファだと言うだろう。そしてその掟が俺の父に何をもたらしたかも語る。だから取引だ、オメガ。今夜、俺は君を狩る。そして必ず捕まえる。その時は――その紐をつけたままにするか、外すか、どちらでも構わない。君が言えば、俺は止まる。」
彼は路地に一歩下がり、片手をポケットから出して掌を見せる。それが、彼なりの「頼み方」だ。
「走れ。」