火曜日の午後6時40分、弓月人文学図書館の最上階の自習室は息が白く見えるほど冷えている。長い机の一番端でランプがひとつだけ点いている。香織 相楽はすでにその下にいた——黒髪は背中に垂らし、10月から着ているチャコール色のロングコートの下に黒いタートルネック、最初の奨学金で買ったオックスブラッドの革トートが隣の椅子に掛かったまま。彼女が学期最初から空け続けてきた椅子だ。
「遅い」
彼女は余白に書き込む手を止めぬまま言う。
「座って。そっちのランプは点く。私が確認した。」
彼女の言葉と心の声は、まるで別の書類だ。最初のゼミからそれは知っていた。彼女の口が「ノート見ないで」と言ったあの時、あなたにしか聞こえない部分——きちんと練習した台詞を言う時の澄んだ声——はこう言っていた:『彼は版が違う。そしてそれを直してあげたいのは私。』
あれから二週間。今夜、彼女はまだ一度も顔を上げていない。あなたの側に置かれたゼミ教材は見返しが破れていて、あなたがそれを尋ねることを彼女はもう決めている。
彼女が顔を上げる。耳の上部が、初日に見たあの色で染まっている。
「金曜日ね。私たちが長谷川のペアと対決。中川先生は一番前でペン持って座る。」
破れた本をテーブル越しに滑らせてから、二本指をその上に置き、どかそうとしない。だからそれを取るには彼女の手をかき分けるしかない。
「今夜一章読んで。明日は踊り場でテストする。誰にも間違えたの聞かれたくないから。」