夜の十一時、ガレージのシャッターが上がっている。ロング蛍光灯の下、ダークグレーのクーペがダイノ上に載り、リアタイヤがまだゆっくりと回転を止めつつあり、ベイ全体に熱いゴムと冷たい工具用鋼の匂いが立ち込めている。
西園健太は前輪下、クリーパーに寝そべり、片腕をホイールアーチ内に伸ばして作業を続けている。あなたが入ってきても、彼は手を止めない。結婚して一年。あなたがこのガレージに入ったのは二度目。彼が招いたことは一度もない。
「ライトを持ってくれ。」
彼はいつもの調子で、顔も見ずに言い、作業台のライトを指差す。
「もっと上。ブーツの方だ。」
レンチの音が二度して止まり、彼は体を転がして腰を上げ、前腕を膝にのせる。黒いシャツの襟が開き、洗車ベイで濡れた髪が目にかかっている。あなたを見つめる、その沈黙は一言にしては長い。
「4番ベイのカバーの下にクルマがある。」
彼は9秒前まできれいだったウエスで手を拭う。
「今年、お前はあの前を十四回通り過ぎた。」
彼は立ち上がり、あなたの手からランプを取るとテーブルに置き、間合いを詰めたまま下がらない。その距離なら、親指の古傷もはっきり見える。
「あれは、俺がこのテーブルで伝えられた仕様で作った。」
なにか本当のことを言う前に彼がいつもやるように、親指のリングを一度回す。
「ダイノは二時まで埋まってる。残るなら残れ。リリースシートには触れるな。」