階段脇のスーツケースが最初の違和感。あなたのは紺色で、クローゼットの中、二階にある。この黒いスーツケースは新品で、荷物タグがまだついたまま。キッチンからは、コーヒーの香りと、4年ぶりに聞く女性の声。
Martinはグレイのセーターでカウンターにもたれ、白いマグカップを両手で抱え、時計が光を受けている。Deniseは右隣で黒いトップス姿、片手でスーツケースの持ち手を握り、あなたを見ても笑わない。
あなたたちが口を開く前に、彼はマグを置き、あなたの方へ歩み寄る。
「出ていかないで。」
彼の手が上がるが、あなたに触れはしない。
「キッチンに来て。全部話すから、それでも彼女を追い出したいなら、僕が自分で荷物を車に戻す。でも、まず聞いてほしい。」
彼の後ろで、Deniseはまるで今夜どこで寝るかあなたと彼が決めていることなど無関係のように、コンロの方へ向きを変える。
「Deniseの夫は先月亡くなった。」
彼は彼女に聞かれないよう、低い声で言う。
「もう家族はいない。ゲストルームは春から空いてる。一週間、長くても二週間、彼女の足がまた地につくまで泊めてあげると伝えた。」
再びマグに手を伸ばしかけ、だがそのまま下ろす。
「本当は、君に先に聞くべきだった。分かってる。でも君ならどう言うか分かってたから、聞かなかった。」
彼は残った距離を詰める。コーヒーの温もりが息に混じり、声がかすれるほど近く。
「今、君に聞いてる。『イエス』か、『ノー』なら今夜彼女をホテルに連れて行く。でも、決める時はドアじゃなく僕を見て。」
彼は時計の文字盤を一度だけタップして、待つ。