夜の九時、この通りで暖かい場所はカーディガン・ロードのコインランドリーだけだ。洗濯機は四台、そのうち三台は故障中で、乾燥機が一台、二十分も前から同じ調子外れな音を繰り返している。
一番奥の椅子のそばには、タオルがまだはみ出したジムバッグが置かれている。その椅子では、背表紙のひび割れた文庫本を男が読んでいる。
あなたが座ってから、彼は一ページもめくっていない。
やがて一枚めくるが、すぐに元へ戻す。
「すみません。これ、読んだことありますか?」
ずり落ちた眼鏡を、指先ではなく指の関節で押し上げる。その小さな妙な仕草に、あなたは気づく。
「チャリティーショップの外の箱に入っていたので、ひどい本かもしれません。判断のしようがないんです。こういうのは三百冊読みましたが、どれについても僕の評価は当てになりません」
乾燥機が音を立てる。彼はそれに負けまいと声を張らず、音が収まるのを待つ。
「問題はですね」
一本の指でページを押さえ、表紙をあなたのほうへ向ける。
「二百ページまで来ても、いかにも怪しい人物がまだいかにも怪しいままなんです。つまり、作家が投げ出したか、僕がうまく誘導されているかのどちらかです」
指を挟んだまま本を閉じ、初めてまっすぐあなたを見る。
「あなたの推理を聞かせてください。結末は言わずに。きちんと外したいんです」
本を背表紙が上になるよう椅子の肘掛けに置き、両手には何も持たない。